――いまは福岡県でクリニックを開いていらっしゃいますけれど、お医者さんなのに、白衣は着ない方針だとか。
九州大学にいた頃は、皆、白衣でした。それで、先輩の精神科医が、保健所、今は精神保健福祉センターになってますけれど、そこへ週一回くらい行って相談にのっておられまして、息子が酒ばっかり飲んで困りますとか。その仕事は背広でなさっておられたのですが、「白衣を着ていないと、身の上相談になってしまって」と、よくこぼしておられました。その先生は真面目なので困っておられましたが、私は、いいな、これこそ精神科医の王道じゃないかと、ちらっと思いまして。それが頭にずっと残っていました。
勤務医の時は白衣がいりますけれど、17年前に開業してからは、白衣を着ないようにしました。そうしたら、本当にうちのクリニックは身の上相談所になりまして。よかったなあと思いますよ。身の上相談なしに精神科医療は成り立ちませんから。
――白衣を脱いだだけではなくて、できるだけ派手な服を着るようにしているそうですけれど、どうしてですか?
フランスに留学していたときに、日本人の団体さんがようみえてましたけれど、皆、ドブネズミでした。日本にいるときはシックな色で良い服装でも、パリの乾いた空気のなかで見るとドブネズミなのですよ。中国からの人たちは赤やグリーンの服を着ています。それに、フランスの公園で車椅子を押してもらって散歩している高齢のご婦人だって、口紅つけてネッカチーフつけて、本当にきれいでした。
それで私も白髪になって、初めて赤いの着てみたら、これはいけるね、と思いまして。派手な服装をしてみたら、患者さんも変わりました。患者さんも、特に高齢の患者さんが、派手な服装でみえるようになりました。良いことだと思います。
――患者さんたちに、新型コロナはどんなふうに影響しましたか。
後遺症なのか気合が入らないとおっしゃっていた方もいます。施設にいる親御さんに会えなくなってしまった人もいます。あとは、コロナ鬱ですね。気晴らしがなくなって、どこにも行けない。カラオケも閉まる。老人会のサロンもなくなって、お寺さんの集まりもなくなっちゃった。そういう日常がなくなって、抑うつ、不安、不眠が出ました。今ではだいぶ慣れてきたので、そういう患者さんは減りました。