通谷メンタルクリニック診察室でペットセラピー犬の心(しん)くんと
通谷メンタルクリニック診察室でペットセラピー犬の心(しん)くんと
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『ネガティブ・ケイパビリティ』という本が、著者も驚く広がりを見せています。著者は、精神科医で作家の帚木蓬生さん。「答えの出ない事態に耐える力」について書いた本で、刊行は2017年ですが、医療界のみならず、教育やビジネスの世界、子育て世代にも響いて、コロナ禍以降は、先の見えない時代を生きる知恵としても引き合いに出されています。
 この力を知ると「生きやすさが天と地ほどにも違ってくる」と著者が言うネガティブ・ケイパビリティについて、詳しく聞きました。

【写真】福岡にある帚木蓬生さんのクリニックのセラピー犬で副院長でもある心くん

※「医師だけでなくビジネスパーソン、主婦をも救う『ネガティブ・ケイパビリティ』とは?」よりつづく

*  *  *
――ネガティブ・ケイパビリティは、「性急な見解や解決を求めずに、不思議さや疑いのなかに、居続けられる力」だそうですね。この言葉に出会ったのは、若い医師の頃だとか。

 そうです。私は32歳で精神科医になった ので、37歳か38歳くらいですかね。アメリカの精神医学誌に、“Toward Empathy:The Uses of Wonder”という論文がありまして。Wonder、つまり、あらっと不思議に思う気持ちですね、それによってEmpathy、共感に届いていく、ということです。なんかいい感じがして読み進めていくと、深い深い内容でした。そこにキーツのネガティブ・ケイパビリティについて書いてあったのです。

――この言葉を知っているかどうかで「生きやすさが天と地ほどにも違ってきます」とまで書いておられました。その時どうして、心が揺さぶられたのでしょうか。精神科医になって、数年。教わったとおりにはいかない現実にぶつかっていたのでしょうか。

 それはもう大変なものですよ。なかなか治らない、治ってもまた入院して来られますし。第一、有能な先輩たちの患者さんが、そう簡単には治らないわけですから。それなのに先輩たちは腐らずにやっている。

 ああ、これはあの精神につながっているんだなあと思って見ていくと、眉間にしわを寄せない、患者さんから好かれる精神科医はだいたい、本人は知らずに、このネガティブ・ケイパビリティを実行している人たちだ、ということに気がつきました。

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白衣は着ない方針だという帚木蓬生さん。その理由とは?