記憶は反復されているうち、ネガティブな部分だけがどんどん加工され、拡大していきます。

 別の言い方をすると、「あいつは危険。あいつだけは決して忘れまい」という「恨み」に育っていくのです。

「防衛記憶」とは、「恨み」の記憶でもあります。

「親への恨みが湧き出して止まらない」と苦しむ中高年が多いと言いましたが、それはこのようなメカニズムが働くから生じることです。自分を守ろうとする「感情」の働きですので、「いい年してこんな風に親を恨む自分は情けない」と自分自身を責めないでください。極めて自然な反応なのに、自分を責めてしまえば、さらに苦しみが大きくなるだけです。

■記憶は風化させるしかない

 それでは、親への記憶(恨み)はどのようにケアをしていけば良いでしょうか。

「恨み」の記憶は、薄らぐことはあっても、消去することはまず難しいです。セラピーなどで「上書き」を試みる方法もありますが、大変な時間と手間がかかります。よほど運が良いか、腕の良いカウンセラーやセラピストのサポートがないと、なかなか達成されないでしょう。

 ネガティブな記憶はあれこれいじるよりも、自分の関心を他にそらしてしまうのが得策。具体的には親との距離を取る。親子以外の他の人間関係を充実させる。楽しい趣味に没頭する、などです。

 親関係のことでイライラ刺激が入ると、どうしても記憶の棚にアクセスしてしまいます。その頻度を下げることで、記憶に向かう回数も減らしていけるのです。

 と同時に、毎日の生活の中で、ご自身の疲労ケアに努めることも忘れないでください。

 中高年に限らず、現代人はもともと疲れています。また今はコロナ禍もあり、誰もが自分で認識しているよりも、ずっと疲労度合いは深いといえます。

 疲れる前に休養を設ける、質の良い睡眠をプラス一時間増やすなどして、心身のエネルギーを日々充電するように心掛けるようにしましょう。

 工夫しながら日々を過ごすことで、恨みの記憶は、やがて自然に風化していきます。焦らず、おだやかな心を取り戻していきましょう。

(取材・構成/向山奈央子)