下園壮太著『自衛隊メンタル教官が教える イライラ・怒りをとる技術』(朝日新書)※Amazonで本の詳細を見る
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 親から怒られたことが「攻撃された」という記憶になっていたり、「つらい時にわかってくれなかった」「守ってくれなかった」というネガティブな思い出として刻まれていたりします。

 そして、このようなつらい記憶に行き当たった結果、「今自分が調子が悪いのは、あの時の親のせいだ」「親が毒親だったから」と考えるようになります。

■イヤな記憶ほど思い出してしまうメカニズム

 ここで、私たちにとって「記憶」とは何か、を考えてみましょう。

「もし私たちが原始人だったら」を考えてみてください。

 文字がなかった時代です。自分の生存を脅かす危険な相手に出会ったら、その情報はしっかり覚えて、仲間に伝えていく必要がありました。そのため、悪い情報ほどより大切で、忘れないようにイメージを拡大して刻んでおくようになったのです。

 現代の私たちでも、ネガティブな思い出ほどよく記憶され、また鮮やかに思い出してしまうのは、このメカニズムによるものです。

 また私たちはエネルギーが弱った時ほど、過去のつらい記憶にアクセスしやすくもなります。これは過去の危険を思い出すことで、今の自分を守る意味があります。

 私は、記憶のことを「防衛記憶」とも呼んでいます。記憶とは自分や仲間を守ろうとする本能のシステムだからです。

■記憶が「恨み」として育っていく

「防衛記憶」は思い返すたびに、加工されていきます。

 何かをきっかけに、たまたま思い出した、昔のイヤな記憶があるとしましょう。

 思い出した直後は、本人は生々しく、つらい体感を伴っています。

 もし感情や体感が落ち着いた時を狙って、出来事を再検討できれば、ネガティブな記憶にも別の見方も生まれてきて、冷静になれるでしょう。

 ところが一人で考えていると、生々しいまま記憶の危険な部分だけを「見て」しまい、つらいので「忘れる」ことで対処しようとします。

 すると冷静な分析まで届きません。それどころか危険な部分だけが結局、何度も反復されていきます。弱っている本人を守ろうとするメカニズムが働くからです。

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親への記憶(恨み)はどのようにケアすればいいのか?