たとえば、防衛省がドローン対策などを目的に研究を進めているレーザーの出力は100キロワット(1000ワットの100倍)である。しかも電気をレーザーに変換する際、大半は熱になってしまう。そのため、100キロワットのレーザー出力を得るにはその3倍、300キロワットが必要といわれる。さらに装置の冷却ユニットやドローンを探知するレーダーにも電力がいる。それらをまかなうにはビル建設の現場などで使われる「超大型」クラスの発電機が必要となる。
「開戦当初、ロシア軍の電子戦装備や防空システムの活動がかなり低調だったのですが、その要因の一つとして、燃料不足で発電機を十分に動かせなかったことが指摘されています。ウクライナ軍は脆弱なロシア軍の補給路を断ったため、燃料が届かなかった。通常の電子戦装備以上に燃料を消費するであろうレーザー兵器を前線で使うのは、兵站(へいたん)上の負担が非常に大きい」
基地などの拠点防衛用にレーザー兵器を使用するのであればまだ理解できるが、これを前線に投入するのは現実的ではないという。
「機動的な動きが要求される前線にレーザー兵器を持ち込んだところで、従来の防空システムさえまともに運用できないのに、本当に役に立つのか、かなり疑問です」
■「極超音速」の信憑性
やはり4年前に公表された新兵器に極超音速ミサイル「キンジャール」がある。
今年3月19日、ロシア国防省はウクライナ軍の弾薬庫を「キンジャール」を使って破壊したと発表した。
「ロシアだけでなく、日本のメディアも『極超音速ミサイルを使用した』と一部で報じていましたが、キンジャールが本当にそれに当たるのかというと微妙ですね」
藤村さんによれば、キンジャールはロシア軍が開戦当初から使ってきた地上発射型の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の空中発射型にすぎないという。
「要するに、イスカンデルを航空機に搭載できるように少し形を変えただけです。一般的な極超音速ミサイルの定義は、極超音速で上下左右に機動するもので、それによってミサイル防衛網を突破することを目的とします。しかし、キンジャールの元となったイスカンデルはそれに当てはまりません」