これまで、プーチン政権は「徴集兵は特殊軍事作戦には参加しない」と国民に繰り返し語ってきた。それを翻すのは作戦の失敗を認めることにほかならず、なんとしても避けたい事態だろう。
■イーロン・マスク“効果”
一方、ウクライナは欧米諸国からさまざまな支援を受けてきた。
「ハードウェア、兵器については特に目新しいものはありませんが、ソフトウェアで注目されるのは歩兵や砲兵のネットワーク化です。それが急速に進んでいます」
友軍の位置情報などをリンクしてAndroidタブレットやパソコンに表示し、リアルタイムで作戦行動を調整する。
「お互いに離れて行動できるので、ロシア軍の対応射撃を受けたとき、被害を低減できます。欧米からのミサイルや戦車などの供与が注目を集めがちですが、通信やネットワーク化といった目に見えにくい部分での支援は非常に大きいです」
NATOはウクライナや黒海の上空に偵察機を飛ばし、絶えずロシア軍の動きをつかんでいる。その情報をウクライナに提供し、味方の部隊同士で共有する。
「通信の面ではウクライナ軍は圧倒的な優位に立っています。開戦当初、ロシア軍はウクライナ軍の衛星通信端末を妨害し、無力化を図りました。それに対して、アメリカのイーロン・マスク氏は『スターリンク』システムをウクライナに提供しました。スターリンクは多数の小型衛星を介して通信するので従来の方法では妨害を受けにくく、通信が途切れません。ウクライナ軍はいまも衛星通信と砲兵用アプリを使って効率よく攻撃目標と火砲をマッチングさせています。通信速度も速く、高解像度の画像も送れます。それらにより、ロシア軍に包囲されたマリウポリの様子もインパクトのある動画で伝えることができました。国際社会の目を引き、非常に大きな効果があったと思います」
■いまは双方が苦しい
一方、ロシア側の通信網は非常に脆弱だという。
「ロシア軍も長年、データリンクシステムを構築しようとしてきましたが、うまくいきませんでした。さらに通信機器や部品を欧米から入手できなくなった。近代的な効率のよい戦い方をするのは困難で、旧ソ連軍が行ってきたような戦い方をするしかない状況になりつつあります」
そのロシア軍がいま、ウクライナ東部ルハンスク州を完全掌握しようと、中心都市セベロドネツクで激しい攻撃をしかけている。
「ロシア軍は総攻撃を行っていますが、兵員数ではかなり苦しい状況に追い込まれている。その息がどれだけ続くのか、なんともいえない状況です。一方、ウクライナ軍は情報通信での優位性はありますが、ロシア軍を押し戻すには戦車などの重火器が不足しています。こちらもかなり苦しいでしょう」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)