日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。熊谷で“TKM”というシンプルすぎる一杯で大行列ができる店主が愛するラーメンは、名店「六厘舎」でスープを作り続けた男の紡ぐ、鶏のうま味が凝縮した清湯系の一杯だった。
【写真】「これはラーメンじゃない」と言われても…今や大人気の「TKM」
■具なし、スープなし、卵あり 「TKM」誕生の背景
JR高崎線・熊谷駅(埼玉県)から徒歩5分、突如現れる大行列にはいつも驚かされる。「ゴールデンタイガー」だ。およそラーメン店には見えないポップな店だが、常連客を中心に遠方からもラーメンファンが集まる。
「ゴールデンタイガー」の看板メニューは“TKM(タマゴカケメン)”。麺線のビシッと整った麺の上に卵の黄身が鎮座する。シンプルすぎるメニューながら、麺のうまさが際立つ一杯だ。「卵かけご飯」の“TKG”からヒントを得て付けた名前もこれまたポップで良い。
TKMのような汁なし麺は一般的には「まぜそば」「油そば」と呼ばれることが多い。なぜそう呼ばなかったのか。店主の金澤洋介さんは言う。
「“冷やしまぜそば”と呼ぶこともできたかもしれませんが、人と同じことをしたくなかったんです。写真を見たら驚くものにしたかったので、卵に目がいく盛り付けを目指しました」
TKMはまかないから生まれたメニュー。まかないとして具なし、スープなしで麺を食べていた時に「卵かけてみる?」と思いついたのがきっかけだ。卵は近隣の川本町にある田中農場のものを使っている。黄身のオレンジ色が濃く、臭みがないので生で食べるには最高の卵だ。
店の外観や内装はとにかくポップ。「ゴールデンタイガー」という店名はピザ屋をやっている知人がつけてくれた。ありきたりの名前で営業するより、目立つ店名にしたかったという。
金澤店主の決めポーズは、店名にちなんだ“タイガーポーズ”。お客さんと一緒にタイガーポーズをして写真を撮ると、SNSにその写真があふれた。こうしてだんだんファンがついていったのである。
2020年10月からは麺を自家製麺にした。製粉会社と二人三脚で完成させた、加水が高めで弾力が強い麺は、麺だけ食べた時の説得力が半端ではない。コロナ禍に合わせて自社工場を作り、製麺と同時に店頭・オンライン販売用のお土産麺も準備した。イートインのみならず、オンラインでもファンが広がり、“TKM”は少しずつ広がっている。
すべてにアイデアがあふれ、唯一無二の存在になった「ゴールデンタイガー」。マーケティング視点でも参考になる店である。今後は、もう1、2店舗広げていきたいという。
「次はTKMの専門店を出してみたいです。TKMを国民食のひとつにできたらと考えているんです。『東池袋大勝軒』の山岸さんがいっぱい弟子をとってつけ麺文化を広めたように、TKMをどんどん広めていきたいと考えています」(金澤さん)
そんな金澤さんの愛するラーメンは、つけ麺の名店「六厘舎」でスープを作り続けた男が独立して一転、清湯(ちんたん)系でミシュラン・ビブグルマンを獲得した一杯だ。