こうして2016年12月、「カネキッチンヌードル」はオープンした。開店して3カ月は間借り時代のファンや、特集された雑誌を見てたくさんのお客さんが来た。だが、ワンオペで店がまったく回らず、許容量オーバー。金田さんはオープンから半年間の記憶がほぼないという。
「クオリティーが全く追い付いていませんでした。間借り時代とは道具も違い、コンロもIH。満足いくスープが炊けなかったんです。オープン景気が終わった頃、IHが壊れてガスに変えたことでようやくちゃんとスープが炊ける環境になりました」(金田さん)
この後転機になったのはオープンから1年半経った頃である。仕込み中に醤油の配合を間違ったことがあった。試しにそのまま作ってみたら、これが驚くほどうまかったのである。ここから醤油の量や火入れの有無を気にするようになる。
「これをきっかけにより食材と向き合えるようになりました。それぞれの素材の良さをマックスで引き出せるようにいろいろ工夫しました。醤油をきっかけにスープも変え、地鶏を使い始めました。オープンから2年である程度完成形に近づいた感じです」(金田さん)
この後、「カネキッチンヌードル」は『ミシュランガイド東京』で3年連続のビブグルマンを獲得。一気にトップの仲間入りを果たす。鶏清湯ラーメンブームの一端を担う名店として、今も行列を作り続けている。
「ゴールデンタイガー」の金澤店主は、金田さんを兄のように慕う。
「イベントで初めてお会いして以来、いろいろ教えてくださる兄貴です。『六厘舎』の出身ということで数字管理やマネジメントにも詳しいですし、食材の扱い方についてもすごい知識を持っています。つるし焼のチャーシューの作り方も金田さんに教えてもらいました。TKMも気に入ってくださり、週1の限定でお店で出されているんですよね」(金澤さん)
金田さんもTKMを高く評価している。
「TKMがとにかくおいしいです。シンプルすぎるだけにこれを作るのは非常に難しいんです。金澤さんは明るい体育会系。職人の部分と経営者の部分のバランスが取れていて、お店が完成されている感じがします」(金田さん)
取材を通して思ったのは、金澤さんも金田さんも底抜けに明るいこと。そして、ラーメン作りだけでなく、経営面もしっかり考えられているのが印象的だった。長く店を続けるには、そのバランスが大事なのだと再認識した。(ラーメンライター・井手隊長)
*「くろ喜」の「喜」は「七」を三つ並べたものです。
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho
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