同時に、いじめやいじりを見て見ぬふりをする傍観者も「加害者」だと河合さんは批判する。
「本来、目の前で誰かがいじめられていれば仲裁に入らなければいけません。しかし、『触らぬ神にたたりなし』という言葉があるように、注意すると今度は自分がターゲットにされたり報復人事を受けたりするのではないかと思い、関わり合いを持とうとしません。誰も仲裁する人がいなくなればストッパーが利かなくなり、いじめやいじりを助長することになります」
働く場で、いじめやいじりが起きないようにするにはどうすればいいか。河合さんはこう語る。
「そのためにはトレーニングが必要ですが、まず職場のトップである社長が実践することが大切です。新人だろうと誰であろうと敬意を払い、『君を一人の立派な社会人だと思っている』と言葉にして言い続けることです。誰もが相手に敬意を持つようになれば、パワハラは起きなくなります」
職場のパワハラ対策として国は20年6月、大企業に対し職場でのパワハラ防止措置を義務付ける改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)を施行した。同法は、パワハラ予防のための研修や相談窓口の設置などの防止策を義務づけた。今年4月、対象は中小企業まで拡大された。
だが、関係者の多くは、パワハラ防止法は実効性に乏しく歯止めにならないと指摘する。『大人のいじめ』の著者で、労働問題に取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」理事、労働組合「総合サポートユニオン」執行委員の坂倉昇平さんも次のように語る。
「まず、パワハラ防止法はパワハラそのものを禁止していません。非常にざっくり言えば、パワハラ防止の方針などを周知啓発して相談窓口をつくり、相談がきたら『迅速に』『適切に』対応したことにすればいいだけ。パワハラが起きたこと自体の責任は問えない。しかも、これらの防止措置ですら、やらなくても罰則はなく強制力がないため、表面的なものに留まってしまいます。パワハラをはっきり禁止し、背景にある労働環境にメスを入れる必要があります」