職場で「いじめ」や「いじり」に苦しむ人たちがいる。加害者にはどんな心理があるのか。そして、実際に被害に遭ったときにどう対策すればいいのだろうか。専門家に聞いた。 AERA 2022年6月13日号の記事から紹介する。
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「いじめ」と「いじり」──。
精神科医の香山リカさんは、両者が起きる背景には加害者の「自己確認」の要素が強いのではないかと話す。
「加害者は自分に自信がなく、人からどう思われているか気にするタイプが多いと思います。自分で自分を確認することができないため、相手は誰でもいいので言いやすい人をターゲットにして、それで周りにいる人にも笑いが起き同調してくれることで自分がやったことは正しかったと確認しているところがあると思います」
香山さんによれば、職場はいじめやいじりがエスカレートしやすい環境にある。人事評価が厳しくなっており、評価される側にいる人はいつもどう思われているか気にしながら働き、ストレスがたまりやすくなっている。そのストレスがいじめやいじりに向かうのだという。
「いじめやいじりの裏には、その人に対する差別的で侮蔑的な気持ちが必ずあります。茶化して笑いものにして、『いじりには愛がある』などというのも完全な方便です」(香山さん)
健康社会学者の河合薫さんは、いじめといじりは根っこが違っても結末は同じだと指摘する。
いじめは一方通行で、相手を見下してバカにする。つまり、自分が優越的な立場に立つためにいじめをする。人間の「負」の部分でもあるという。
■不快と思えばパワハラ
一方でいじりは、間違ったサービス精神を持った人が、周りの空気を和ませようとしたり相手を盛り上げたりするつもりでコミュニケーションの一部としてやっている面がある。
「いじめもいじりも、やられた側が不快だと思えば、結果的にはパワハラです。パワハラの中に、いじめといじりがあると思います。しかし、いじめている人もいじっている人も、それがパワハラだという認識が乏しい。相手に対し、敬意を払う気持ちがないからだと思います」(河合さん)