支持率を落とすことなく、通常国会を終えた岸田内閣。御厨貴・東大名誉教授と松原隆一郎・放送大学教授が岸田文雄首相、そして自民党を評価する。
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御厨貴(以下、御厨):こんなに無風だった国会は珍しいですね。対談が成立するかな。
松原隆一郎(以下、松原):岸田内閣は、現在も高支持率をキープしています。初の通常国会を、うまく乗り切ったことになります。
御厨:岸田文雄首相は安倍晋三元首相のように攻撃的な言葉を使いながら保守的な政策に向かっていくタイプではなく、菅義偉前首相のように「こういうことをやっていく」とだけ言って、言葉を省略して細かい説明をしないタイプでもない。岸田さんのような第三のタイプは、意外と受け入れられてしまうから、支持率が下がらないのでしょう。
松原:私が岸田首相について非常に印象的だったのは、昨年の総裁選の直前。二階俊博幹事長(当時)がいろいろ動いていて、おそらくカードは小池さん(百合子東京都知事)だったと思いますが、岸田氏はいち早く「党役員の任期は1期1年連続3期まで」と打ち出して、約5年間幹事長を務めていた二階さんを潰した。この俊敏性はすごいと思いました。菅前首相は、コロナ対応の会見でも言い間違いが多く、用意されたペーパーをよくわからないまま読んでいる印象だったけれど、岸田氏はペーパーを見ずに立て板に水だった。少なくとも、自分が語っていることの意味はわかっているんだな、と。
御厨:私が今回の国会を見て一番気になったのは、岸田首相の言葉の使い方です。たとえば「敵基地攻撃能力」と「反撃能力」との違いについて、岸田氏は「同じことを指す」と答弁した。「どちらも『いわゆる』という言葉をつけた上で使わせていただいている」と不思議な論法を展開したあげく、「同じか違うかを含めて、選択肢として排除せずにしっかり議論したい」。もう、何を言っているのかわからない。国民もおかしいと思わないのかな、と思うんだけど、どうも、おかしいと思っていない。
松原:参院選が迫る中、あいまいなことを言ったとしても、とにかく支持率を下げないようにしているのでしょうね。