松原:岸田首相からしたら安倍元首相とどう距離をとっていくかが課題ですが、ロシアによるウクライナ侵攻によって自然と、プーチン大統領に接近してきた安倍外交から転換することになった。物価高を受けて、今後は日銀のインフレ目標政策も転換されるかもしれない。これまでの政策を塗り替えて、安倍元首相の復権の目を潰すことになる。「棚からボタ」だらけですね。

御厨:結果的に「何もしないことが良いことだ」ということになってしまっている。以前、岸田派は四十数人だから、「これから50人、60人にしていかないといけませんね」と言ったら、岸田さんは「えっ」と驚いて、「自分の能力からしたら四十数人がギリギリだ」と答えた。「この人たちと結束してどうやっていくかが大事で、田中角栄元首相のように100人の派閥なんてつくれない」と。

松原:数の論理ではない、という考えなのか。

御厨:歴史ある宏池会の存在を意識して、生かすようにしている。だから「新しい資本主義」と言うと、何かあるようなイメージにさせられる。しかし実際は、所得倍増計画がいつの間にか資産所得倍増計画になっていた(笑)。

松原:プライマリーバランスの2025年度黒字化という期限も、骨太の方針から取っ払ってしまった。コロナ禍で給付金の財源が必要な時期ならまだわかりますが、落ち着いてきた今になって取っ払うとは。防衛費の増額などを求める安倍元首相の圧力が大きかったのだと思います。

御厨:安倍元首相は目立っていましたが、自民党としてはどうでしょう。公明党との関係もギクシャクしています。

松原:今回は茂木敏充幹事長と公明党の関係がうまくいかなかったようですね。

御厨:20年間連立してきて、きしみが見られるようになってきた。今回も最終的には握手していますが、あんなことをわざとらしくやらなければいけないのは、裏で何もできていないからです。

松原:こうした事態を見ると、かつての野中広務氏(元幹事長)のような、コワモテだけど水面下で相手とうまく付き合って関係を築けるような人材がいない自民党なのだと感じます。

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