■安倍・菅の果実つかんだ岸田氏

御厨:それに与党が丸め込まれるのは仕方がないとしても、野党も「それは違う」と追及しきれていない。国民民主党の玉木雄一郎代表は、自民党がガソリン税のトリガー条項発動を了承したから予算案に賛成すると言ったが、結局、トリガー条項発動は見送られた。それでも「実現に向けた方向性が明らかになった」と、賛成してしまう。正面から議論せずに、ちょっと言葉を言い換えてごまかしていく風潮が続いていくと、安倍政権や菅政権のとき以上に構造的に危険なことになりますよ。国会論戦が成り立たなくなる。

松原:私は特に、看板政策の「新しい資本主義」が全然わかりません。

御厨:あれが非常に岸田首相らしい。わからない言葉で包み込むという(笑)。そもそも、彼は非常に運がいい。コロナ対策の道筋は全部、菅前首相がつけてくれて、ロシアによるウクライナ侵攻でコロナ禍への国民の関心も過去のものになったばかりか、憲法改正論議にも追い風が吹いている。コロナからウクライナの転換点にある今、政権を握っていることで得をしている部分が大きい。

松原:岸田さんはコロナ対策をうまくやっているというイメージを持たれていますが、ほとんど何もやっていないですよね。一方、菅前首相はワクチン1日100万回接種の体制を本当に作った。当初は厚生労働省の動きが悪くて進んでいなかったけれど、かつて自分が大臣を務めた総務省の官僚をうまく使ったようです。首相になったタイミングは不運だったし、他の点はまったく評価できないけれど、この点だけはほめてあげたい。

御厨:安倍元首相は、自民党をじわじわと保守色に染め上げた。かつては多くの人が右派的なものにはついていけないと思っていたけれど、薄められた右派的なムードで党全体を覆って、今や右派的な政策にわざわざ反対する者が出てこないムードをつくることに成功した。菅前首相は官僚を締め上げて、政治家が本気になったらかなわないと肝に銘じさせ、うまく働かせる仕組みを作り上げた。3代目の岸田さんは何もしていないけれど、それらの果実を何となくつかんで、うまくいっている。

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