「日本の鉄道が発展してきた当時の、ターミナルとしての駅本来の様子を今なお色濃く残す駅です」(越さん)
左右対称の外観デザインが大正時代をほうふつさせるネオルネサンス様式。2019年に6年近い修復工事を終え、1914(大正3)年の竣工(しゅんこう)当時の姿に復元された。88年、鉄道駅舎として日本で初めて国の重要文化財に指定された。
越さんによれば、同駅は九州の玄関口として、関門連絡航路と九州各地を結ぶ列車の出着駅だった。ホームの起点・終点側で他のホームとつながり、その端のところに駅舎がある構造は貴重な文化遺産だという。
「こうした形態が残る駅はほかに上野駅、函館駅、阪急梅田駅などがありますが、プラットホームの構造や重要文化財である駅舎の価値など、昔ながらの鉄道駅としての様子を今に一番残していると思います」(越さん)
ほかに越さんが「個人的にオススメ」と言うのが、JR山陰線の飯井(いい)駅(山口県萩市)、JR紀勢線の二木島(にぎしま)駅(三重県熊野市)、由利高原鉄道鳥海山ろく線の曲沢駅(秋田県由利本荘市)、JR米坂(よねさか)線の羽前小松(うぜんこまつ)駅(山形県川西町)──の4駅。とりわけ二木島駅は、旅情を誘う駅ナンバーワンという。駅は、1996年春の青春18きっぷのポスターの撮影地にもなった。
「駅は、かつて鯨漁で栄えた小さな漁師町にあります。熊野三山へと通じる熊野古道の入り口でもある切り立った谷の脇には、小さな入り江に寄り添うように集落が形成されています。駅へは、名古屋駅から列車を乗り継いで約4時間半かかりますが、時間をかけてでも訪ねてみたい駅本来の素朴な原風景が広がっています」(越さん)
近年は「猫駅長」も話題だ。羽前小松駅も猫駅長がいる駅として知られる。
猫駅長の名はしょこら
猫の名前は「しょこら」。本名は「ショコ・ラ・ダリヤ」で推定4歳、雄の雑種だ。
「見た目が高級そうな猫だったので、おしゃれな名前がいいかなと思って」
と、同駅を管理・運営する地元のNPO法人「えき・まちネットこまつ」事務局長の細谷絵里子さん(41)は明かす。
同駅は、町が旧国鉄から委託を受けた全国初の「町民駅」としても知られる。2010年からは地元住民らで構成する同法人が中心となって管理し、駅を拠点とした街づくりが行われている。
そんな駅にしょこらが来たのは19年5月。駅前で鳴いているのを細谷さんが見つけて保護した。飼い猫のようだったので保護を知らせるチラシをあちこちに貼ったが飼い主が現れない。
かくして、駅舎で飼うことになると、そのうち駅の窓口カウンターに乗って乗客を出迎えるようになった。「猫駅長にしたらどう」との多くの人の声に押され同年10月、駅長に就任した。
するとSNSで話題となり、しょこらを一目見ようと県外からのお客も急増。利用者の増加や、駅の知名度向上に一役買っているそうだ。
「しょこらも、癒やされに来てニャンと言っています」(細谷さん)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年6月27日号