「元来、駅はその土地の“顔”であり、その土地から旅立つ人、ほかの土地から訪ねてくる人にとって特別な存在です。美しい景色やオシャレなカフェを楽しむだけではなく、なぜそこに鉄道が敷かれ、駅ができたのかという生い立ちにも意識を向けてください」
「それを肌で感じるためにも現地へ出向き、その土地の歴史や風土とも触れ合うようにしたいものです。これからどのような形で駅を継承していくのかについても思いをはせ、駅に潜んでいる魅力を見つけ出してください」
越さんが「絶景四天王」として挙げたのが、冒頭の下灘駅のほか、JR釧網(せんもう)線の北浜駅(北海道網走市)、大井川鐵道井川線の奥大井湖上駅(静岡県川根本町)、JR篠ノ井線の姨捨駅(長野県千曲市)だ。
大パノラマが広がる
その一つ、奥大井湖上駅は突き出た半島の先にあり、まるで湖面に浮かんでいるかのような駅だ。標高490メートル。2002年に完成した長島ダムのダム湖「接岨湖(せっそこ)」にせり出した半島状の山の頂にポツンとある。
「駅の両側が接岨湖で、駅に降りて外に出るには、奥大井レインボーブリッジと呼ばれる橋を渡っていかねばなりません。そこから県道へ出て高台から湖を眺めると、その真ん中に駅が浮かび上がる様子が見られます」(越さん)
大井川鐵道によると、駅ができたのは1990年。ファンの間では「秘境駅」として知られていた。10年ぐらい前からSNSの普及で撮影のスポットに。高台から見下ろすと、大パノラマが広がる。
駅周辺には一軒の人家もない。なぜこのような場所に駅をつくったのか。同鐵道広報室の山本豊福(とよふく)さんはこう話す。
「長島ダムができるまでは周辺には集落があったのですが、ダムができることによって集落は立ち退き、線路も水没する区間ができました。その区間に『犬間(いぬま)』という駅があり、水没の補償として新たな駅をつくらなければいけなくなり、つくったのが奥大井湖上駅。水や風の音、鳥の声も聞こえ、静かな時間を過ごすことができます。のんびりするのもオススメです」
「ベスト11」の中で一番
今年は1872(明治5)年に新橋~横浜に日本で初めて鉄道が開業してから150年。JR肥薩線の嘉例川(かれいがわ)駅(鹿児島県霧島市)、JR鹿児島線の門司港駅(福岡県北九州市)、JR東海道線の美濃赤坂駅(岐阜県大垣市)──の3駅は、越さんが「歴史的な駅舎」として挙げた駅だ。特に関門海峡を望む門司港駅は、今回挙げた「ベスト11」の中でもナンバーワンだという。