コロナ下の行動制限がなくなった今、魅力的な駅を訪ねたい。「駅の達人」で駅旅写真家の越信行さんに聞いた「行きたい駅ベスト11」を紹介する。AERA2022年6月27日号の記事を紹介する。
* * *
小さな駅のホームの目の前。見渡す限りの瀬戸内海が広がり、夕暮れ時は空と海が夕焼けで染まる。
「見ているだけで癒やされます」
JR四国・予讃(よさん)線の下灘(しもなだ)駅。駅舎前で2017年にキッチンカーを改装したテイクアウト専門のカフェ「下灘珈琲(コーヒー)」をオープンさせたオーナーの戸田英清(ひできよ)さん(47)はしみじみ語る。
駅があるのは愛媛県伊予市。
無人駅の木造駅舎とホーム、それにベンチだけがある小さな駅だが、全国からカップルや家族連れなどが訪れる。
JR四国によれば、駅ができたのは1935年。ピーク時の86年には1日の乗降者数は400人近くいたという。だが、マイカーの普及などで駅の利用者はどんどん減り、駅員もいなくなった。
日本で一番海に近い駅
そんな駅に転機が訪れたのは98年冬。JRの「青春18きっぷ」のポスターに下灘駅が採用されて一躍有名に。ドラマやCMのロケ地にも選ばれ、「日本で一番海に近い駅」「日本一夕日の美しい駅」として知られるようになった。
戸田さんは駅のすぐ近くに実家があり、幼いころから下灘の海を見て育った。高校生の時はこの駅を使い毎日通学した。
「当時は普通の駅という感覚でした」
と振り返る。
今は夕日を楽しみに駅を訪れる人が多い。だが、戸田さんが一番好きだというのが誰もいなくなった夕方以降だ。
「夕日を見終わったらみなさん帰りますが、そこから日が沈むまでの時間です。空と海がブルーやオレンジのグラデーションに染まり、そして真っ暗になります。本当に静かです」
駅──。普段の生活で何げなく使っている鉄道の駅には、さまざまな魅力がある。コロナ下の行動制限がなくなった今、ゆったりと駅を訪ねてみてはどうだろう。
駅旅写真家で『駅舎のある風景』の著書もある越信行(こしのぶゆき)さん(53)に「行きたい駅ベスト11」を聞いた。越さんは、国内約9600の普通鉄道駅のうち6割超の約5850駅を撮影している「駅の達人」だ。