■最初は専門用語に戸惑う
丸森町の養蚕は、福島県の専門業者から小さなカイコの幼虫を仕入れるところから始まる。それを1カ月ほど養蚕農家が育て、さなぎとなる際に繭(まゆ)ができると、群馬県の業者が買い取る。
カイコの飼育時期は通常6月から10月まで。その間に繭を5回出荷する。
「幼虫に枝のついた桑の葉、条桑(じょうそう)を与えて育てるんです。カイコはだいたい5回、脱皮を繰り返したところで絹糸腺(けんしせん)から糸を出して、繭づくりを始める。その前に蔟(まぶし)という、格子状の巣の中にカイコを入れる。これを上蔟(じょうぞく)作業と言います」
あらかじめ、海老名さんから資料を送ってもらい、予習していたのだが、説明が専門的で、なかなか頭に入ってこない。そう言うと、海老名さんは笑った。
「私も最初、何を言われているのか、ぜんぜん分からなかったんです。聞き慣れない用語ばかりで」
海老名さんは子どものころ、カイコは比較的身近な存在だったが、改めて写真を撮り始めると、知らないことがたくさんあることに気づかされた。すると、さらに興味が湧いた。
■カイコを育てる仕事の記録に徹する
「例えば、この写真のネット」と言い、たくさんのカイコの上にかけられたオレンジ色のネットの役割について説明する。
「取材に行くと、約1×2メートルくらいのネットがいっぱい干してあるんですよ。何に使うんだろうな、と思ったら、カイコさんが繭をつくる時期になると、その上にネットを2枚かけるんです。カイコは上へ上へと登っていく習性がある。それを利用して網の目をくぐり抜けさせると、ふんやおしっこ、桑の切れっぱしとかがきれいにとれる。先人から受け継がれてきた工夫というのはすごいな、と思って見ていました」
作品は、カイコを育てる仕事の記録に徹した、という趣で、人の表情のアップや村の風景などは入ってこない。
「カイコにはどういう習性があるのか、それを利用してどう繭をつくっていくのか、ということを追ったんです。そこには、目黒さんも佐藤さんもないと思って、いっしょにまとめました」