写真家・海老名和雄さんの作品展「恵みと試練-丸森 2019-」が8月17日から東京・新宿のニコンプラザ東京 THE GALLERYで開催される。海老名さんに聞いた。
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インタビューの前日、仙台市に住む海老名さんは宮城県南部の丸森町を訪ね、作品にも登場する目黒啓治さんの一周忌を前に線香を手向けた。
「撮影を終えて、ちょうど1年たったころにお亡くなりになったんです。72歳。草刈り機の事故で。目黒さんは非常に優秀な方で、率先して『丸森町の養蚕業は絶対に守るんだ』とおっしゃっていた。2年前の台風19号の被害で『もうカイコさんはやれないって』としょげていたんですけれど、土砂を取り除いてもらって、ようやく仕事を再開した矢先だった。私もショックで。なかなか立ち直れなくて」
海老名さんにいきなりそう言われ、返す言葉に詰まった。
■「海老名さん、撮ってよ」
丸森町は阿武隈山地の最北に位置する低い山が連なる地域。昔は養蚕業が盛んで、最盛期には1000軒もの養蚕農家があったという。
ところが1970年代以降、輸入生糸が急激に増加。化学繊維にも押され養蚕業は衰退していった。海老名さんによると、いま丸森町の養蚕農家は5軒しかないという。
「貴重な文化遺産なので、それを写真で残すというのが大きなテーマ。もうひとつ、学校の教材として使えるものをつくってあげようと思ったんです」と、撮影を始めた動機を明かす。
町役場に相談したところ、紹介してくれたのが福島県境に接する筆甫(ひっぽ)地区に住む目黒さん夫婦だった。
2019年春、目黒さん宅を訪ねると、「いま、養蚕業はほんとうにお金にならないんだけれど、やっぱり文化遺産として残したいから、海老名さん、撮ってよ」と、逆にお願いされた。
さらに、阿武隈川沿いの大張地区の養蚕農家、佐藤靖さんも紹介してもらった。
「佐藤さんのお宅はお母さんも意欲的なんだけれど、息子さんは若くして養蚕業を担っている貴重な存在。東京農工大の学生さんを受け入れて養蚕業の体験学習もやっている。お金も大事だけれど、文化というものを残していきたいと、積極的なんです」