■ほぼ全員初対面。撮影時間は約10分
「まあ、写真では、そのチョー大変さは見せない。でも、『人を撮る』のがどんなに難しいことか。それに挑戦しているんですけれどね」
現場を訪れて、初対面ということがほとんどで、撮影時間は「10分くらい」と、ごく短い。
「『はじめまして、山岸伸です』から始めて、名刺を出して、どこで撮るかを決めたら、『せーの』で撮る。助手は2人。暗かったらライトを使う。そんなかたちで撮っていくんです」
電光石火の撮影はまさに「瞬間の顔」というタイトルにふさわしい。
ただ、例外もある。この記事の冒頭、軽飛行機といっしょに写っているのはDRONE FUND創業者/代表パートナーの千葉功太郎さん。撮影場所は茨城県南部にある竜ケ崎飛行場。
「千葉さんはパイロットの免許を持っていて、『飛行機のところで撮りたい』と言ったら、『じゃあ、名古屋に置いてあるので、来てください』と。『それはちょっと交通費が。名古屋までは行けないです』と返事をしたら、『わかりました。じゃあ、ぼくが飛んでいきます』って。だからスケジュールとか、いろいろな面で撮らせてくれた人にはけっこう負担をかけているんですよ。そんなわけで、『甘えます』という世界でもある」
■撮影のペースを上げた理由
「意地みたいなものがあって、1000人まではどうしても達成したい」と思ってきた撮影は、「去年から飛ばし始めた」。
その背景には体力面や資金面での危機感があるという。さらに「写真の世界があまり景気がよくない。そういうことも含めて、もうそろそろ限界だな」と漏らす。
「ぼくの写真人生も終わりかな、と。だから、どこでけじめをつけるのか、考えるんですね」
「瞬間の顔」と平行して写してきた北海道帯広市主催の「ばんえい競馬」は、山岸さんのもうひとつのライフワークで、「毎年、新しいものを撮ってきた」。ところが、この1年は新型コロナの影響で競馬場の中に入ることができず、まったく撮影できなかった。「ということは、これもちょっとおしまいかな、と」。
「永遠はないと、最近感じます。この『瞬間の顔』も1000人というのが……うーん、最後かな、と。残りあと85人まできたので、なんとしてでも撮り終えて、みなさんに見てもらおうと思っています」
(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】山岸伸写真展「瞬間の顔」
オリンパスギャラリー東京 5月20日~5月31日