プライベートで撮り始めた理由について、第一回の写真展を開いたとき、山岸さんはこう答えている。
<きっかけは言葉にしにくいんだけど。好きな人たちを、仕事の写真じゃなく撮っておきたい、自分の写真として残しておきたいって思いからかな>(「デジカメ Watch」写真展リアルタイムレポート)
しかし、その理由は、撮り続けていくうちに変化していく。
「瞬間の顔」を始めてから2年目の2009年、慢性骨髄性白血病と診断された。
「ぼくが病気になって、ある日、冷静に考えたときに、これまでお世話になった人を自分のカメラで残そうと思った」
■グンと上がった撮影のハードル
最初は身近な人に声をかけ、撮影していった。
「そうしたら、1年で60人くらい撮れたんです。それで写真展をやろうと、オリンパスギャラリーに話を持っていったら、『いいですよ、やってください』と言われて、第一回をやったんです。西田さん、鳩山由紀夫さんとか、いろいろな人に出ていただけましたから、『すごいね』という話になって、(ああ、じゃあ、次もやろうかな)と、開催中に思ったわけですよ」
しかし、3回目を過ぎたころから撮影のハードルがグンと上がった。
「2回目までは自分が持っていた人脈で、すすっといったんです。あと、知り合いに紹介してもらったりして、200人くらいまではなんとかいった。でも、その後は撮影した人の紹介。それが基本ですね」
紹介してくれる人と紹介された人が親しい間柄であれば、「電話でOKなんです。『山岸さんがこういうことをやっているから、写真を撮らせてあげてよ』『ああ、いいよ』で、撮りに行ける」。
しかし、そんなケースはそうあるわけはなく、ふつうは撮影にこぎつけるだけでも1カ月はかかるという。
「紹介されても、まず正式にお願いをするところから始めなければならない。『山岸伸というのはどんな人物か』、先方にお知らせするために、いままでやってきたものを送って見せる。それでOKが出たら、会社を訪問する。もしくは、どこそこに行くとか、いろいろありまして、こんなに大変なのか、というくらい大変」