■守られすぎた木は心に響かない
森の中を流れる青く細い水の流れは新潟県津南町にある龍ケ窪の湿地帯。
「これは夜、写したんです。日が沈むと、森の中って、すごく静かになるじゃないですか。ほんとうに細い水の流れなんですけれど、歩いていると、ちょろちょろと、水音が聞こえてきた。それで興味が湧いて、カメラを向けた」
画面に写り込む光の筋が印象的な作品は佐渡島の乙和池。嵐で折れたのか、ホオノキに似た大きな葉をつけた枝先が水面を埋めている。
「木漏れ日をスローシャッターで写しました。木の葉のすき間が風で揺らめくと、光が筋になって写る。風も感じられます」
幹がいくつにも枝分かれし、いびつなコブで覆われた不思議な木を写した作品もある。薪炭用に伐採され、その切り株から再び成長したブナの古木だ。
秋田県にかほ市周辺に広がる森にはこのような変わった形のブナが点在し、獅子ケ鼻湿原はその保護地になっているという。
「ここには『あがりこ大王』と名づけられた立派な奇形ブナもあるんですけれど、守られすぎていると思って、心に響いてこないんですよ。この木は保護地から外れているので、完全にほったらかしなんです。だけど、すごく生き生きしているというか、しぶとく生きているなと、訴えかけてくるものがあります」
■ふらっと行って、撮っちゃう
ふだんから、保護されているもの、派手なものにはほとんど興味が湧かないという。
「ほんとうに、道端で撮ったようなもの。だから、ぼくが撮影するところにはほとんど誰もいないんです。桜も無名の木がほとんど。最近、ぼくの作品のなかに『三春滝桜』(『日本三大桜』の一つ)がないことに気がついたんですよ」
そして、こうも言う。
「ぼくの取材って、あまり調べて行かないんです。事前に知りすぎると、面白くなくなっちゃうような気がする。いつも、ふらっと行って、撮っちゃうんです」
(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】古市智之写真展「皐」
竹内敏信記念館・TAギャラリー 5月6日~5月28日