竹内さんのアシスタントを卒業後は、朝日新聞社の写真部に勤め、人物やルポルタージュなどを撮影してきた。
その後、フリーとなり、「そろそろ本格的に風景写真を撮り始めようと思ったのが37、38歳のとき」だった。
それから15年。風景写真家として実績を重ね、最近は気持ちに余裕が出てきたという。
「ぼくは毎年、富士山のフォトコンテストの審査員をしているんですけれど、富士山というのは、撮り尽くされているようで、まだまだ奥が深い。それを応募作品から学びますね。まだまだ発見があるなと、受け止められるようになってきた」
そう感じられるようになってきたのは、やはり師匠の教えのおかげかもしれない。
「若いうちから風景を撮っていたら、カタチだけで、きれいとか、そんなものしか追い求めてなかったかもしれません」
■自然の神様のガーデニング
今回の写真展は新緑から初夏にかけての緑がテーマ。冒頭、「皐」には「谷」という意味があると古市さんが語ったように、作品には水辺の風景が多い。
足を運んだ場所は関東以北がほとんどで、桜前線を追いかけて東北地方に北上し、そのまま新緑を撮影することもあるという。
この時期の自然風景というと、「青空と新緑」のようなイメージが思い浮かぶが、そういった作品はほとんどなく、芽吹いて開いたばかりの若葉が霧や雨にぬれ、心地よい緑の色が目に染みる。
大量の残雪に埋まった新緑の谷間は、新潟県と福島県の県境にそびえる浅草岳のふもと。谷の奥の岩壁から雪どけ水が流れ落ちている。
「アイヨシの滝(只見町)です。冬の間通行止めになる『六十里越雪わり街道(国道252号)』の開通初日に写したものです。ヤマザクラを撮影に行ったら、まだ雪がこんなに残っていた」
新潟県南魚沼市の沢筋には、生き生きとしたシダの新葉が茂り、オオバギボウシの卵型の葉がちらりと見える。
「ぼくは車の窓を開けて、ゆっくり走るんですけれど、このとき、さーっと、水の音が聞こえてきたんです。その音に誘われて、橋の下を見たら、この風景があった。誰かがつくったみたい。でも、もちろん、そんなことはなくて、自然の神様のガーデニングですね」