風景写真家・古市智之さんの作品展「皐」が5月6日から東京・目白の竹内敏信記念館・TAギャラリーで開催される。古市さんに聞いた。
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「皐(さつき)」という言葉にはさまざまな意味があるそうで、「ふつうは『陰暦の5月』ですが、そのほかにも『谷』『告げる』とか、意外な意味もある」
古市さんは作品展のタイトルについてこう語った。
■ここまでは竹内先生も来れねえな
ちょうど20年前、「アサヒカメラ」のグラビアで、私は古市さんの作品「白南風の島―小笠原諸島―」(2001年4月号)を担当したことがある。
東京から父島まで、おがさわら丸に乗って28時間。「ここまでは竹内先生も来れねえな、と思った」。それが、「日本でいちばん遠い島」を訪れた理由の一つだった。
1967年生まれの古市さんが風景写真家・竹内敏信さんのアシスタントを務めたのは20歳から5年間。初めて小笠原を訪ねたのは竹内事務所を卒業した93年の夏だった。父島からさらに2時間半、漁船に乗って聟島(むこじま)にも渡った。
サンゴ礁に囲まれた島はまるで小さなアフリカのようだった。濃い青空の下、生い茂るヤシやリュウゼツラン。夜は朽ちた漁師小屋に泊まった。海風に吹かれながら闇に立つと頭上には満天の星が輝いていた。
「アサヒカメラ」で作品を発表してから約10年後、「ぼちぼち自分を見つめなきゃいけないな、と思って」、まとめた小笠原の作品が評価され、「2013年度キヤノンカレンダー写真作家」に選ばれた。写真展も開催した。
「風景写真家としてやっていく自信がついたのはこのころですね。それまではずっと、懐疑的だった」
■風景以外のものに挑戦してみろ
脳裏に焼きついていたのは、「若いうちから風景を撮っても、いい写真は撮れない」という師匠の言葉だった。
「要するに、内面が醸成されないうちは、風景は見えてこない。若いときは風景以外のもの、例えばドキュメンタリーとか、そういったものに挑戦してみろと、言われてきたんです」
実は私も、竹内さんから似たような話を聞いたことがある。
「若いやつで、木村伊兵衛の作品はいい、なんて言うのがいるけれど、俺はその言葉を信用しないね。あの作品のほんとうのよさが若いやつにわかるわけがない」と。