写真家・山崎エリナさんが鉄を生み出す製鉄所の現場を写しとった作品集『鉄に生きる サスティナブルメタル 電気炉鉄鋼の世界』(グッドブックス)を出版した。山崎さんに聞いた。
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「鉄に生きる」とある表紙の写真を手にすると、1600度に熱せられ、液体となった鉄を入れる巨大なバケツのような容器が傾けられ、そこから流れ落ちる光の滝のようなオレンジ色の輝きが写し出されている。
現実離れした壮大な光景。そこで思い出したのが早稲田大学名誉教授、橋本周司さんの話だった。
「溶けた鉄がばーっと流れていく。ああいうのを学生にぜひ見せたいと思うんだ」
橋本さんは日本のロボット工学の父といえる人で、早稲田大学ヒューマノイド研究所所長、副総長を歴任した。橋本さんはこう力説する。
「ものをつくることそのものが喜びであり、それを見る人も何か感じることができる。それがほんとうのもののつくり方だと思うんです」
最近はAIなど人工知能系のソフト技術が注目され、メカ系のハード技術、つまり「ものづくり」に憧れる若者が減っていることを実感する。
そんな若者たちに「ほそぼそしたものじゃなくて、スケールの大きなものを見せて心を揺さぶりたい」。そう訴える橋本さんが口にしたのがダイナミックな鉄づくりの話だった。
■爆音とともに吹き上げる炎
今回、製鉄の現場を撮影した山崎さんも強く心を揺さぶられたという。それがインタビューの最初に見せてくれた「爆発シーン」。
見開きページいっぱいに吹き上がる炎。鉄の原料を巨大な釜に入れ、「電気を通された瞬間、爆音とともに、ものすごい勢いで吹き上げる炎に、ただただ圧倒されました」。
写真集のタイトルは「鉄に生きる サスティナブルメタル 電気炉鉄鋼の世界」と、かなり長いが、そこには山崎さんの思いが込められている。
「サスティナブル」とは、地球環境を維持しながら人間社会の発展を目指す活動だが、そこで重要となるのが資源のリサイクルで、鉄の再生もその一つ。
この製鉄所では、鉱山で採掘した鉄鉱石からではなく、地元地域で集めた「くず鉄」を原料として利用し(いわゆる「都市鉱山」)、これを電気炉で溶かすことで鉄を再生産している。