横倒しにされた取鍋は空とはいえ、まだ非常に高温で、内側から黄色い光を放っている。それに完全防備で長いパイプを持って立ち向かう姿は、まるで大きく口を開けたドラゴンと剣を手に戦っているよう。
タンディッシュから「連続鋳造機」に流し込まれた鉄は固められ、「ビレット(鋳片)」と呼ばれる柱のような形状となって出てくる。
さらにビレットを1200度まで再加熱し、「圧延機」で何度も圧力を加えて延ばすことでさまざまな形状の鉄鋼製品をつくり上げる。この過程で鉄は鍛えられ、粘り強さを増していく(焼けた鉄に繰り返し金槌を振り下ろす刀鍛冶と同じ原理だ)。
圧延機には鋼材を送り出す「ローラーガイド」が設けられており、「この取り付けや組み立てが肝心かなめで、いちばん技術がいるそうです」。
さらに、「安定した品質を維持するために、ちょっとしたゆがみでも常に整備している」と言う。
蒸気機関車の車軸ような「ロール」が並ぶ圧延機。その中に潜り込み、全身、真っ黒になりながらメンテナンスする技術者の姿にしびれる。
さらに、山崎さんは機械そのものにも美を見いだし、写しとる。
「油がのった機械って、ギラギラして、なんて美しいんだ、カッコいいんだ、と思って」
■「目でつくる」が凝縮された工場
圧延され、出来上がった鉄鋼製品はさらに別の工場に運ばれ、鉄製品に加工される。
山崎さんが訪れたのは「ターンバックル」という建設用資材の製造現場。
「それまでダイナミックな現場を見てきたので、ちょっと驚いたんですけれど、ここでは鍛冶職人のように手作業で製品を1個1個作っているんです。だから感覚が重要になってくる。人の『目でつくる』というのが凝縮されたような工場で、検品する人たちの目もすばらしくて」
黄金色になるまで熱した鉄棒の真ん中にプレス機の刃で「割り」を入れ、それを何度もひっくり返しながら専用の「治具」で形をつくり上げていく。その姿は鍛冶職人そのもの。出来上がった製品の表面には鈍い輝きが浮き上がり、触ってみたくなるような魅力にあふれている。
今回、山崎さんがいちばん表現したかったのは、鉄を溶かす場面から製品づくり現場まで、いつも身近にあった炎であり、それと向き合っている人々の情熱だという。
「普段の生活でこれほどの炎を見ることはないですから。その熱を感じていただければうれしい。人と鉄、そして炎ですね」
(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)