――適応できないという音声が鳴るというのは、どういうことを意味するのでしょうか。
心臓が動いていないということですので、効果がないということです。
僕が一番最初に見たときの状況では、その(AED)対象にはないんじゃないかなという気はしました。実際に使用しても、反応はありませんでした。それよりは、銃ということを考えれば、大きな血管や内臓を損傷しているのではないか。そこからの出血が止まらないでどんどん出ているんじゃないか、と思いました。できるだけ大きな医療機関でマンパワーのあるところで集中治療を受けることが一番肝心だと思っていました。
――心マッサージはどのくらいの時間されたのですか。
時計を持っていっていなかったですし、現場の人間としては、実際の時間よりもかなり長く感じました。実際にどれくらいの時間かというのはここではっきりと申し上げることはできません。
――時間が長く感じるなか、どういう思いでいらしたんですか。
日本国を支えてきた一国の首相の方ですので、なんとしても救命したいという思いは当然ありますので、我々医師として、首相であっても、普通の方であっても、それはみなさん一緒なんですけど、特にそういう状況でしたので、今何を一番すべきか、何かできることはないかということを必死に頭の中で考えていました。
――演説があることは知っていましたか。
全然知りませんでした。最初に患者さんが「安倍総理が撃たれた」と叫んでいるのを聞いても、あまり実感しなかったといいますか。患者さんの一人が、そういう、病状の一つとしてそういうことを言っておられるのかな、という感じもしました。でも、その状況を見ればただごとではないとすぐわかりました。それで、現場に行きました。
――現場について、倒れられている様子を見て、どう思われましたか。
ひと目見た瞬間にかなり厳しいなと思いました。やはり、まず意識レベルがまったく……。心マッサージをしても、ぴくともされていませんでしたし、手を触ってもそれに対する反応もありません。意識レベルはほとんどない状態でした。
心マッサージの途中にAEDをやるときも、自発呼吸が出ている様子もありませんでしたので、いわゆる心肺停止状態。それから、僕らは仕事柄どうしても顔色(がんしょく)というのを見るのですが、青白いというより、それを通り越して真っ白い顔になっていましたので、出血がかなりひどいということ。それから、拳銃で撃たれたということで、血管および内臓の損傷で、かなりの出血をされているということはわかりました。
眼球結膜と同様に瞳孔も見ましたが、開きかけていましたので、かなり厳しい状況だというのが第一印象でした。