撮影には広角レンズを使うことが多いという。
「水面にレンズの先端がくっつくくらいのカメラ位置で、『接写する』という感じで撮影します。洋服が汚れても、濡れてもいいや、くらいの感じで地面に膝をつけて撮る」
大敵なのは風で、「水面がわずかに波打ってもピントがぜんぜん合わないし、撮れたとしてもボケてしまう」。
ピントはファインダーをのぞきながら手動で合わせる。カメラまかせのオートではうまく合わないことが多いのだ。
「ピント合わせはなかなかシビアです。日中はそれなりに合わせやすいんですけれど、夜間はファインダーをのぞいてもけっこう真っ暗で、よく見えないんです」
「先生はよく反射を打ち消すPLフィルターを使いますけど、ぼくは真逆なんです」
「じっくり撮る」ために、フィルムは感度の低いISO50、100のものを使う。デジタルカメラであればISO100から400の間に設定する。
レンズの絞りは「わりと開放に近いところ」まで開け、「周囲をぼかして幻想的に写す」。
難しいのが夜間撮影の際の露出時間で、光を反射している部分とそうでない部分では明るさが極端に違う。しかも、写った結果がその場ではわからない「フィルム撮影だと露出時間は手探り」となる。
長時間露光で、シャッターを開けている最中に人や自転車、車が通ることがある。すると、水面が波打ち、映り込みが消えてしまう。「落ち着くまで、けっこう時間がかかるんです」。車のヘッドライトの明かりが入ってしまう場合もある。いずれの場合も撮り直しとなる。
それどころか、もう撮れなくなってしまうこともあるという。
「小さな水溜りは一回、人が踏むだけで変わってしまいます。水面の花びらがなくなったり、水溜まりの周囲の雪がなくなったり」
水溜りの映り込みを写す作業がこんなに根気がいるものとはまったく思いもしなかった。
「だから、イメージどおりに撮れたときはけっこううれしいですね」
ちなみに、フィルムで夜間撮影をする場合は、外灯の光の色を調整するために「色温度変換フィルター」をレンズの先端に装着する。
「先生はよく反射を打ち消すPLフィルターを使いますけど、写り込みは出なくなってしまう。ぼくはそれを生かして作品を撮る。先生とは真逆なんです」
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】中津原勇気写真展
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