写真家・中津原勇気さんの作品展「Unnamed world 水溜りから見えるもう一つの世界」が2月12日から東京、富士フォトギャラリー銀座で開催される。中津原さんに聞いた。
インタビューで久しぶりに訪ねたのは東京・目白にある風景写真家・竹内敏信さんの事務所「TA」。中津原さんはTAに所属する写真家なのだ。
JR目白駅から少し歩いたところにある閑静な住宅街。路地の突き当りにある事務所の入口をくぐり、らせん階段を下ると、白い大きな机が置かれ、それを囲む壁面には作品を収めたファイルがぎっしりと並んでいる。
昔から「事務所に勤めながらでも自分の作品を撮れ」というのが竹内さんのモットーで、しばしば独立前の若き写真家たちがこの机に作品を持ち寄って合評会を開き、写真の腕を磨いてきた。ちなみに、昨年開催された清水哲朗さんの写真展「トウキョウカラス」の作品も竹内事務所時代にこつこつと撮りためたものだった。
「先輩方は風景やスナップを撮った作品が多いですけれど、そのなかでぼくはちょっと不思議な感じですね」と、中津原さんは言う。
そのテーマは水溜りに映る世界。作品のほとんどはフィルムで写したものだが、それには理由があるという。
「(竹内)先生に教えていただいて、それをカタチにしたいとずっと思っていたんです。専門学校の竹内ゼミのテーマも水溜りへの映り込みだった。当然、フィルムで撮っていたんですが、それをずっと続けてきたんです」
ただし、「デジタルもないとマズい」と師匠から諭され、デジタルカメラで写した作品も展示に加えている。
タイトルは「Unnamed world」。つまり、名前のない世界。写り込んでいる側の世界。水面の向こうに別の世界が広がっているイメージだ。
「見る人がもう一つの世界に入り込むように」作品を上下逆に展示
展示作品は、「よくある水溜りの映り込みの写真から」始まる。
駐車場のアスファルトの窪みにできた水溜りの中で打ち上げ花火が散っている。枯れ葉の落ちた水面に映った紺色の空とケヤキの街路樹。そのとなりではサクラの花びらが陽春に輝き、日向水に浮かんでいる。溶け残った雪がちらほらと見える雪代水。そこに映り込んだ細い枝張りが早春の空気を感じさせる。
ユニークなのは撮影した場所で、道路や歩道のほか、公園のぬかるみの水溜り、ドラム缶や建設機械の上の溜り水と、バリエーションに富んでいる。
作品の雰囲気ががらりと変わるのは画面を斜めに、ぐるりと回転させるように写した写真からで、青空に浮かぶうろこ雲が時間の流れを思わせる。
「ここからは写真が上下逆向きに並びます。本来はさかさまに見えるんですけど、ふつうに見えるイメージで展示します。作品を見る人がもう一つの世界に入り込むように」