一方、イェール大学の西尾さんは議論形式の授業の移行も問題なかったと語る。「最大の問題は語学の授業で、発音の確認なども上手く行えないため混沌としていました」。東大と同様、米国の名門大学も手探りでオンライン授業のあり方を模索している。
■米ミネルバ大の独自システム
オンライン授業の分野で近年注目を集めてきたのが、米サンフランシスコに本拠を置くミネルバ大学だ。世界7都市に寮を保有し、学生は4年間で七つの都市を移動しながら、オンラインで授業を受ける。同大学3年の片山晴菜さんは、認知神経科学と教育学の知見に基づき独自に設計されたミネルバ大学のオンライン授業について「効率と知識定着率が対面の授業より断然いい」と評価する。
ミネルバ大学の授業設計の裏には、認知容量、注意力、自主制御という三つの能力への配慮がある。オンライン授業は離脱率が高いと一般に言われるが「それは学生にモチベーションがないからではなく、人間にとってこれらの能力に限界があるからです」。学生のみならず教員もそれは同じだ。こうした人間の限界に配慮してシステムからカリキュラムまでを設計しているのがミネルバ大学の最大の特徴だという。
オンライン授業による疲労を考慮し、授業数は原則1コマ90分が1日に2コマ。一つの授業は週に2回ほど、最大19人の少人数で行われる。1回の授業でやらなければならない事前課題は、3~5本の論文や、多い時は100ページに及ぶ教科書・課題文献を読み、理解度を問う問題に答えること。加えて、人文社会系の科目では学んだ理論を特定の状況に応用したり、コンピューターサイエンスでは実際に問題を解いたりといった、文献に関連した課題が出される。こうした課題も全て独自のオンラインシステム上で完結している。
実際の授業では、初めの15分で事前課題の理解度を確認、20~30分ごとに二つ程度のアクティビティを行い、最後の15分で授業のまとめを行う構成が徹底されているという。これは、授業の質を教員によって属人化するのではなく、全学で担保するための工夫の賜物だ。各授業のシラバスは、独自プラットフォームで他の教員にも共有されるようになっており、そこで他の教員がコメントをつけることで、授業計画のさらなる洗練が行われている。複数の教員が同一科目を担当する場合は、シラバスの共同編集が行われるという。