子孫に引き継がれることがあるという遺伝的記憶
その意識が大きく変わったのは3年ほど前。インターネットで検索をしていると、偶然「ジェネティックメモリー」という言葉に出会った。
ジェネティックメモリーというのは、<遺伝的記憶。先祖の体験や記憶はオールリセットされず、部分的に子孫に引き継がれることがあるという>(写真集『おたまじゃくし-Genetic Memory-』あとがきから)
しかし、この文章を読んだとき、(なんだかなあ)という思いがした。身体的特徴だろうが、ジェネティックメモリーだろうが、自分のルーツをたどる道しるべとしてはあまりにも頼りない、か細い糸のようにしか私には思えなかった。しかし、清水さんは「ジェネティックメモリーという言葉に出合ってからより明確に見えてきた。エッジが立ってきた」と言う。
やはり、よくわからない。「それって、具体的にはどういうことなんですか?」。
「なんか気になる風景とかありますよね。懐かしい、落ち着く、胸騒ぎがするとか。あと好き嫌い、興味の有無とか。そういう自分の感覚だと思っていたものが、もしかしたらジェネティクスメモリー、先祖からの遺伝子による影響だとしたら。何か心が動くところがあったら、故郷とか、自分のルーツに関係するんじゃないかと。そう思って、もう一回、日本中をおさらいして旅して、撮影して、まとめたのが今回の作品なんです」
なんだ、この木は。雷に打たれたようなものすごい胸騒ぎ
写真展の作品は日食から始まる。真っ白な太陽。しかしそのほとんどは黒い月に覆われ、深い弧が暗い空に浮かんでいる。
そのとなりの写真は沖縄県・阿嘉島の風景。「これを見たとき、『こりゃ、全然違うわ。これ以上南方はないな』と思ったんです」。つまり、心が動かなかった、わけだ。「それで、どんどん北上していった」。
佐賀県伊万里市で写した「かっぱのミイラ」、京都府伊根町の舟屋と作品は続く。しかし、「西日本では珍しいものを見てもそう思うだけで共感はあまりなかった」。
北上はさらに続き、作品は北海道・知床半島に到達する。しかし、そこで感じたのは「違った。行きすぎた」。そして「東北に自分の体になじむものがあった」と、実感する。
「最初は当てずっぽうで南から北へ旅しながら、だんだん心のスライダーの幅を縮めていったら、東北に行きついた。それも、沿岸部ではなく、山間部。海には怖いイメージがあったけれど、森の中に入ることは好きだった。山よりは森、という感じで東北の森に焦点を絞った」
そして、運命の木、「十二本ヤス」と出合ったのは、北海道から少し南へ戻り、青森県津軽地方を取材していたときだった。「なんだ、この木は。雷に打たれたようなものすごい胸騒ぎがしたんです」。