しかし今回の食事で、あらためて出汁の重要さがわかり、これは私の食生活も何とかしなくてはと考えはじめた。これまで添加物の入っていない出汁パックを使ったり、素材から味が出る物、たとえば味噌汁に切り干し大根などを入れて、出汁がわりにしたり、小さな煮干しをそのまま具の野菜と一緒に煮て、別に出汁を取らずにすませたりと、手抜きをしていた。それでも出汁の味があるおかげで、味噌も少量で済むし、和食には出汁の威力がとても大きいのだった。しかし昆布を水に入れて沸騰寸前に取り出すとか、本の通りにやってみても、私がとった出汁はいまひとつで、それで出汁パックの登場になったのだった。

 早速、出汁のとり方の本を買って読んでみたら、おいしい出汁のためには、食材もそうだが、鍋も重要だと書いてあって、

「へええ」

 と驚いてしまった。用具はアルミの雪平鍋がいちばんで、三ミリと厚さまで指定してあった。ステンレス製や琺瑯製はすみやかに湯温が下がらないので、濁りや臭みが出るのだそうだ。腕の悪さもあるのだろうが、私はずっとステンレス製の五層鍋を使っていた。そしてその仕上がりはいつも、「おいしい」といえるものではなく、本の指摘のとおり、濁りがあるし臭みもあった。しかし味噌を入れるし、こんなものでいいかと諦めていた。しかし心のどこかで、ちゃんとした出汁はこんなものではないだろうという気持ちはずっとあったのだ。

 もちろん料理が苦手の私と、厳しい修業に耐えて懐石料理を極めた料理人がとった出汁では大違いなのは当たり前である。しかし下手は下手なりに、自分が納得したものを作りたい。そこで本に指定してあったような、アルミ製の厚さ三ミリの雪平鍋を購入し、おいしい出汁がとれるという真昆布も調達し、出汁をとってみたのだが、この一番出汁はおいしいという表現よりも、味が上品すぎてどうしたらいいのかしらと困ってしまった。ふだん使うには、もうちょっと庶民的なほうがいいと、今度は小ぶりな煮干しなどを買って出汁をとってみたら、やはり材料も鍋も違うからか、今までとったなかでは、理想に近いものだった。

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