イラスト:オカヤイヅミ
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 いつもは自炊の私だが、先日友だち二人と、その娘さんと四人で、久しぶりに懐石料理を食べに行った。母が元気な頃は、午前中からその料理店の近くで着物や帯を何点も買わされ、その後は店に移動して昼食を奢らされるというのが一連の流れになっていた。だいたい月に一度、ひどいときには二週間に一度、同じルートを巡らされるので、

「お姉ちゃん、またあそこに行ってみない?」

 と明るい声で電話がかかってくると、

(ああ、またあのコースか……)

 と戦々恐々としたものだった。

 そんな母も老人施設に入所して、恐ろしい和装、和食巡礼もなくなった。懐石料理はランチ向きにアレンジしてあるものはともかく、いくらおいしくても一人で食べるものではない。四年ほど前、地方の部署に異動になる元担当の女性が、その店を予約してくれて、彼女の上司と共に食べたのが最後だった。

 今回は、友だち二人にはいろいろとお世話になったので、その御礼として久しぶりにその店にお付き合いいただいたのだが、席の予約をするには価格的に高中低のコースのなかから、中以上の価格のものを注文しなければならなかった。当日は休日で、せっかくお誘いしたのにスムーズに店に入れないと申し訳ないので、価格と内容を吟味した結果、松茸がメインになっている中のコースにした。世の中には、松茸と聞くとうっとりする人がいるが、私はまったくない。たしかにおいしいし、出されれば食べるけれど、毎年、松茸の季節を待ちわびているようなタイプでもない。毎日、茸類は欠かさず食べているけれど、松茸には執着がないのである。ただ彼女たちに喜んでもらえればいいと、それだけだった。

 秋らしい取り合わせの八寸の後、それぞれの目の前に珪藻土で作られた一人用コンロが運ばれ、網の上にスライスした松茸がのっていた。その他にも追加分の松茸もお皿にのっている。みんなで、

「初松茸だわ」

 といいながら話し込んでいたら、お給仕してくださった女性が、あわてて、

「あのう、網の上の松茸が、そろそろ食べ頃でございますので」

 という。

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