無条件の愛に包まれた佳奈子の弾ける笑顔。娘によって、母である成田は救われたのだ。
「あの母だったからこそ、私は子どもたちに向き合える。だって、目の前の子は、バーチャルな私。だから、絶対見捨てないと思える」
成田の人生は、人を救い、人に救われる旅だ。
「大好きという想いを伝える代わりに、母親のボタンを盗む。かつての私のような子を減らしたい」
母への、そして、自分への赦(ゆる)しが、成田を衝き動かす。母のボタンは今も裁縫箱に眠っている。
(文中敬称略)
■なりた・なおこ
1963年 宮城県出身。3月生まれで体が小さかった。8歳で兵庫県に引っ越す。
75年 神戸女学院中学部入学。高等学部に進む。映画「グリース」、ドラマ「大草原の小さな家」に感動しアメリカに憧れる。英語の勉強に精を出す。
81年 一度も塾に通わず自力で神戸大学医学部に現役合格。お茶、料理も習い大学生活を満喫する。
87年 大学卒業後は関西で研修医に。小児科医の道を歩み始める。
90年 正明と結婚。
94年 米国セントルイスワシントン大学医学部へ夫婦で留学。分子生物学、発生生物学、発達脳科学の研究をスタートさせる。正明によると「最初からネイティブ並みに英語を話し驚かされた」。不動産業者と交渉しコンドミニアムまで購入(帰国時に売却)。
98年 帰国後、獨協医科大学越谷病院(現・同大埼玉医療センター)小児科に勤務するも、すぐ妊娠が判明。体調が悪い日の当直は、正明が自分の勤務先から1時間半車を飛ばして代理を務めた。
99年 長女・佳奈子誕生。奈緒子より佳き子にという願いを込め命名。
2000年 筑波大学基礎医学系講師に。その後、2病院で小児心理外来を開設。小児科の臨床と基礎研究に従事する。
05年 文教大学教育学部特別支援教育専修准教授に。正明は06年から三重大学大学院医学系研究科教授に。
09年 文教大学教授に。
14年 医学・心理・教育・福祉を包括した専門家集団による親子支援事業「子育て科学アクシス」を開設し代表に。薬を不必要に用いず、大人の接し方を変えて子どもを変えていく手法は、発達障害の症状がある子どもに対する精神薬の過剰処方に警鐘を鳴らす意味も込めている。
18年 『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング 育てにくい子ほどよく伸びる』(上岡勇二と共著)を刊行。
19年 公認心理師資格取得。NHK「あさイチ」などに出演。
■島沢優子
著書に『世界を獲るノート』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)など。本欄ではラグビー日本代表前HCエディー・ジョーンズ、脚本家・福田雄一、受刑者支援を行う三宅晶子らを執筆。
※AERA 2020年3月30日号
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