希死念慮があっても成田が継続してかかわって命を落とした子はいない。「それが私の誇りです」(撮影/東川哲也)
希死念慮があっても成田が継続してかかわって命を落とした子はいない。「それが私の誇りです」(撮影/東川哲也)
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 友達に迷惑がられたり、ほかの子と同じ行動が取れなくて、生きづらさを抱え、学校に行けなくなる子どもがいる。そんな子を成田奈緒子は独自の「ペアレンティング理論」でサポートする。もう何人もの親子を救ってきた。成田自身、小さい頃に生きづらさを抱えていた。母からの愛情に飢えた。だからこそ、子どもたちを絶対に見捨てないと誓う。

 ある日曜日。成田奈緒子(なりた・なおこ)(57)が代表を務める千葉県流山市の「子育て科学アクシス」で、「ワーク」と呼ばれるアクティビティが行われていた。

「やだ、やだ、やだ!」

 逃げまわる子を「一緒にやろうよ~」と追いかけていた成田がはずみで転倒。そばにいた小学5年生の少年が心配そうにのぞき込んだ。

「くうこ、大丈夫か?」

 うん、ありがとうねと笑顔で返す。ここでの成田は、成田空港に由来する「くうこ」が通称だ。黒いパンツについた埃(ほこり)を払いながら教えてくれた。

「すごく成長したの。あの子だって、以前は逃げ回るほうの子だったのよ」

 教室で椅子をガタガタさせて友達に迷惑がられる。授業中に立ち歩く。「前にならえ」がまっすぐできない。大量に忘れ物をする。そんな少年がアクシスに通い始めて3年で変わってしまった。似たケースは枚挙にいとまがない。よって、多くの親子が悩みぬいた揚げ句にアクシスを訪ねてくる。

「最後の砦(とりで)」とされるアクシスは、成田の研究領域である脳科学を基本とした親子支援・家族支援事業だ。自閉症などの発達障害や不登校、ひきこもり、育児不安など様々な悩みを抱える親子を最新のアプローチ法でサポートする。

 独自に確立した「ペアレンティング理論」は、日々の生活の中で親が適切にコミュニケーションすることによって脳の発達を促す。例えば、思いつきや親の都合に合わせて「お手伝い」をさせるのではなく、「必ずその子が毎日やらなければ家族全体が困る」役割を与える。そうすると「ありがとう」「ごめんね」というやり取りが家族ででき、学校で「何もできない」と評された子が変貌(へんぼう)する。親と子それぞれがワークショップで専門家に関わり学んでもらうことで、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの傾向を示す指標が1年後には下がってしまう。

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