今も2週に1度、高崎経済大学の授業に東京から新幹線で行く(撮影/篠田英美)
今も2週に1度、高崎経済大学の授業に東京から新幹線で行く(撮影/篠田英美)

■依存症や原子力発電など、哲学は現実生活と結びつく

 12年の初頭、国会前で原発反対デモが起き、それに対して「デモなんかに意味はない」という冷笑的な意見がネットに多数書き込まれると、國分は「みんなデモの本質がわかっていない」と感じた。そしてフランス留学時代に何度も見た、群衆がゴミを撒き散らして行進するデモの光景から始まる次の文章を記した。

<デモとは何か。それは、もはや暴力に訴えかけなければ統制できないほどの群衆が街中に出現することである。その出現そのものが「いつまでも従っていると思うなよ」というメッセージである><デモは、体制が維持している秩序の外部にほんの少しだけ触れてしまっていると言ってもよい(中略)そうした外部があるということをデモはどうしようもなく見せつける。だからこそ、むしろデモの権利が認められているのである>

 スタジオジブリの雑誌「熱風」12年2月号に掲載されたこの文章は、ネット上で拡散され、国会前デモに集まった人々の相当数が読んだという。

 立命館大学准教授で哲学者の千葉雅也(41)は、02年ごろの東大大学院在籍時に飲み会で國分と初めて会った。雑誌「批評空間」最終号で、ちょうど國分が執筆したフランスの現代思想家、ジル・ドゥルーズについての論考を読んだときだった。

「論文の怜悧な筆致から物静かな人かと思っていましたが、江戸っ子のようなべらんめえの口調で話す快活な人で、そのギャップに驚きました」

 それ以来、千葉は國分と交流を持つようになり、研究者となってからは雑誌の対談やイベントで仕事を度々ともにするようになった。

「國分さんの哲学は、頭の中だけで遊んでいるんじゃなく、哲学を人生の問題として引き受けることにある。人間の実生活と哲学との結びつきを、鮮やかに強烈に見せてくれる人です」

 千葉の言葉通り、先の『中動態の世界』は医学書院の雑誌「精神看護」に連載された原稿が元になっているのだが、実際に『中動態の世界』を読んだ医療関係者から、「依存症や慢性疾患の治療に役立った」という声が多数届いているという。

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