00年に始まった介護保険制度はその後、要介護3以上でなければ特別養護老人ホームに入居できなくなった。そのため要介護1や2では家族介護が基本となったが、認知症や脳梗塞(こうそく)などを患っている人の介護はデイサービスを利用するくらいでは仕事との両立が難しく、離職せざるを得なくなっている。
だが、自らキャリアを諦めた女性たちの声は政策に反映されていない。山根教授は政策としてまず介護離職した人たちをバックアップする就労支援が必要だと説く。
「その上で、訪問介護の賃金を保証して人材を確保するなど、女性が介護しながら仕事もできる循環をつくっていかなければいけません」
介護報酬の低さが原因
介護を支える職場も女性が低賃金で担っているのが現状だ。厚労省の21年の調査では、介護職員の平均月収は約25万1千円で、全産業平均の約35万5千円と比較すると10万円以上も下回る。
日本介護クラフトユニオン(NCCU)の村上久美子副会長は、介護報酬(介護保険サービスの公定価格)が低いことが原因だと語る。
「その結果、起きているのは人材不足です。介護業界に人が入ってこず、入ってきても昇給もあまり望めないため生涯設計を描くことができず、若い職員は辞めていきます」
政策として求めるのは処遇改善。全産業平均までの賃上げだ。
「賃上げをして介護従事者の数を増やさなければ、いずれ介護崩壊も考えられます。すでに施設をつくっても人手が足りず、一部の階を閉鎖するところもあります。処遇改善は喫緊の課題です」(村上副会長)
コロナ禍では、それまでも指摘されていた貧困や格差の問題が顕著に現れた。岸田政権も発足当初は富や所得の再分配を訴えた。だが、6月7日に閣議決定した新しい資本主義実行計画では「資産所得倍増」を掲げ、株主至上主義からは転換しそうにない。
「家賃も払えなくなるかもと考えると、不安でしかたありません」
関東地方で中学生の娘と暮らすシングルマザーの女性(40代)は、心境を吐露する。
コロナ禍で失業しスーパーで週5日のパートで働くようになったが、昨年の年収は約200万円。いわゆるワーキングプア(働く貧困層)だ。
生活費を切り詰め、自身の食事は1日2食。物価高も追い打ちをかける。この状態が続けば生きていけなくなるという。
「国は私たちを助けてくれないのでしょうか」(女性)