防衛費の大幅な増額を訴えるなど、政治家からは勇ましい声も聞こえてくる。一方で、日々の生活に苦しんだり悩んだりする人が増えているのが日本の現状だ。そうした人たちの声は参院選で届くのか。AERA 2022年7月4日号の記事から紹介する。
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「もう限界」
関東地方に暮らす女性(50代)は、悲鳴を上げる。
離れて暮らす母親(80代)に昨年あたりから認知症の症状が出てきた。女性はテレワークで仕事ができることもあり、実家で介護を始めた。しかし、じきに仕事との両立は無理だとわかった。
幻聴、妄想、ひとり歩き……。母親はデイサービスやショートステイに行きたがらず、女性が24時間ついていなければいけない。実家近くには兄が住んでいるので協力してほしいと頼んだが、「俺には無理」と言って何も手伝ってくれない。寝不足とストレスで倒れそうだというモヤモヤした気持ちを、女性はこう吐き出した。
「結局、介護は女性がするんですよね」
介護は女性の固定観念
日本では「介護の担い手は女性」という固定観念が残っている。2017年の総務省の就業構造基本調査では、親などを介護している介護者は627万6千人いて、そのうち63%を女性が占める。実践女子大学の山根純佳教授(ケア労働論)はこう話す。
「介護は女性がするべきだという強い規範はなくなっていると思います。しかし、家事や育児と同様、家族介護も介護サービスも女性に任せておけば何とかなるというジェンダーバイアスが社会に根強く残っています」
働き盛りが家で介護をする結果、待っているのは介護離職だ。
厚生労働省の調査によれば、介護離職は10年以降、増加傾向にあり、女性が大半を占める。20年に「介護・看護」を離職理由に挙げた人は約7万1千人いて、女性は約5万3千人と75%近くを占めた。
15年9月、当時の安倍晋三政権はいわゆるアベノミクスの「新三本の矢」の一つに「安心につながる社会保障」を掲げ、「介護離職ゼロ」を20年代初めに達成することを目指した。続く菅義偉、岸田文雄各政権にも引き継がれたが、達成のめどは立っていない。山根教授によれば、いったん家庭で介護が始まった場合、今の介護保険制度では介護離職しなければ介護できない設計になっているからだ。