秋はラーメン界が騒がしい季節だ。2大イベントといわれる東京ラーメンショーと大つけ麺博の開催に加えて、賞レース「TRYラーメン大賞」の発表がある。名だたるラーメン評論家が1年かけてラーメンを食べ歩き、そのなかから選び抜かれた名店がランキングされるため、業界最高権威ともいわれている。過去には「らぁ麺 やまぐち」「中華そば しば田」「町田汁場 しおらーめん進化」など本連載でも紹介した名店が選出されてきた。今年10月に発表された「第20回 TRYラーメン大賞 2019-2020」では、「宍道湖(しんじこ)しじみ中華蕎麦 琥珀(こはく)」が新人賞を受賞した。18年7月以降にオープンしたお店が対象の賞だ。
京急線の雑色駅(大田区)から徒歩5分、古くから続く商店街を抜け、踏切を渡った先に「琥珀」はある。決して駅前の目立つ場所ではないが、令和元年5月1日のオープン以来、連日大行列を作っている。
一杯につき約65個のしじみを使用した「琥珀」のスープは、芳醇な香りに溢れている。ひと口食べただけでしじみの旨味が口の中に広がる。これまでに食べたことのない一杯だ。
店主の岩田裕之さんは、20代の頃に食べた横浜家系ラーメンがきっかけで、ラーメンの食べ歩きを始める。当時好きだったお店は「六角家」と「八代目がんこラーメン」。30歳までは会社員だったが、食好きが高じて飲食業界に飛び込んだ。居酒屋や焼肉店などを経て、ラーメンでの独立を考えるようになる。そこで13年、知人の紹介で東十条の人気店「麺処 ほん田」の門を叩いた。当時36歳。やや遅めのスタートだった。
「ほん田」は明るく楽しい職場だったが、仕事は過酷だった。何時間も立ちっぱなしで、特に夏の暑さは厳しかった。何度も逃げ出したくなったが、ラーメン作りの楽しさに夢中になった。
「焼肉は素材で美味しさが左右される部分が大きいですが、ラーメンは素材とともに技術によるところも大きい。いい素材を使ったからといって、美味しいラーメンが作れるわけではないですからね」(岩田さん)
その後、「ほん田」がプロデュースするお店の責任者を3年半務め、ラーメンの新たな味づくりをいくつも手掛けていく。19年に入り、いよいよ独立に向けて動き始めたとき、雑色で韓国料理店を営む母親から、「そろそろお店を閉めたい」と相談を受けた。母が長く守ってきた場所で成功したいと、お店を改装してラーメン店を開くことを決意する。準備を進め、大安だった5月1日、「琥珀」は令和初日にオープンした。
■貝だしラーメンの時代が到来!?