「金色不如帰」の真鯛と蛤の塩そばは一杯900円(筆者撮影)
「金色不如帰」の真鯛と蛤の塩そばは一杯900円(筆者撮影)

 全国からあらゆる食材を取り寄せ、蛤のスープと合わせてみる。ただ寸胴の中で合わせるのではなく、スープを別々にとってから、後で合わせるダブルスープ方式、さらには3種類のスープを別々にとって合わせるトリプルスープ方式まで試した。何度も調整を重ね、山本さんのラーメンは完成した。当時、蛤に豚と乾物系を合わせたスープは他になく、トリプルスープの手法をラーメンで取り入れたのも初めてだった。独立5年目にして、ようやく一つの手ごたえを感じた。

 14年10月には、さらに磨きをかけて「金の不如帰」になりたいという思いから、店名を「SOBAHOUSE 金色不如帰」に変えた。この年には「ミシュランガイド東京2015」にラーメン部門が新設され、「金色不如帰」はビブグルマンを獲得する。

「ビブグルマン」はミシュランガイドの指標の一つで、東京の場合、5000円以下で食事ができるコストパフォーマンスの高い店に与えられる。

 ミシュランガイドにラーメン部門ができる前から、山本さんはミシュランを意識していた。「いつかはガイド誌で評価されるラーメンを作りたい」という思いで、自身のラーメンをブラッシュアップさせていたのだ。

「金色不如帰」の真鯛と蛤の塩そば
「金色不如帰」の真鯛と蛤の塩そば

 ビブグルマンを獲ってからは“星”の獲得をひたすらに目指した。ラーメン好きのお客さんだけでなく、食のプロをも唸らせる一杯を作らなくては――。こうしてさらなる改良を続け、蛤のダシを前面に出しつつも、食材の旨味やダシ感を5段階で感じられるような仕掛けを施した。

 しかし、ビブグルマンは獲得できるものの、ミシュランの星は遠かった。15年には巣鴨の「Japanese Soba Noodles 蔦」、16年には大塚の「創作麺工房 鳴龍」が一つ星を獲得。自分のラーメンには何が足りないのか、自問自答する日々が続いた。

 その答えは“麺”だった。スープや具材は他の誰にも真似できないものを作り上げている自負はあったが、場所の関係もあり、製麺所にオーダー麺をお願いしていたのだ。

 自家製麺を取り入れれば、天候や湿度などに合わせて麺を打てる上に、原価を下げることもできる。その分、スープもブラッシュアップできると考えた。ミシュランの星に向けての最後の課題は自家製麺だ。山本さんの心は決まった。18年5月に幡ヶ谷のお店を閉め、新宿御苑前に移転する。製麺のために広いスペースを確保し、スタッフの休憩場所も作った。

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待望のミシュラン”星”獲得