念願の自家製麺を使って作るラーメンは、素晴らしいものだった。北海道の小麦「春よ恋」を中心に国産小麦をブレンドした中細ストレートの自家製麺はしなやかで、喉越しも良い。山本さんの求めていたものを全て結集させた、まさにオンリーワンな一杯が完成した。こうして「金色不如帰」は満を持して待望のミシュラン一つ星を獲得した。
ミシュランの星は、ただ狙うだけで獲れるものではない。誰もやっていないことを追求し、具現化してきた山本さんの13年という長い道のりが、ミシュランの星という形で評価されたのだ。「ミシュランガイド2019」で一つ星を獲ったラーメン店は、同店を含めて3店舗だけである。
「勝本」の松村さんは、「八五」のオープンのきっかけの一つとして「金色不如帰」の名前を挙げる。
「今までラーメンに使われたことのない食材にチャレンジし、ラーメンの枠を広げた功績がすごいと思います。蛤にインカベリー、ポルチーニ、(イベリコ豚の)ベジョータを合わせるなんて誰が考え付くでしょう。それぞれの食材の旨味だけではなく、複合的な旨味、そして丼の中の味の変化まで演出しています。まさに世界に通用する一杯ですね。私が『八五』で他にないラーメンを作ろうと立ち上がるきっかけを与えてくれました」(松村さん)
山本さんも松村さんの腕を高く評価する。
「安易に高級食材をうたったり、色気を出してわざわざ新しいものを作ろうとするお店が多い中、『八五』のラーメンは美味しいものを追求した結果新しいものができた、という感じがします。自分のラーメンもそうですが、こういった旨味の組み立て方はゼロから作ってきた人にしかわからないものです。松村さんのラーメン作りの技術を後進の皆さんにも伝えていってほしいと思います」(山本さん)
他にない新たなラーメンで、世界を相手に戦う二人。成長し続けるラーメン界の最先端に彼らがいることは、間違いない。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。
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