ラーメンにタレを入れる文化は、カエシとだしを合わせた日本蕎麦の「そばつゆ」の製法を応用したもので、そもそも西洋料理にはタレを使うという感覚がない。松村さんはホテル時代の技術を生かし、名古屋コーチンと鴨をメインに、昆布、椎茸、イタヤ貝、ドライトマトなど様々な食材の味を重ね、旨味を膨らませていく。スープに塩味を加える際には、中華の上湯(シャンタン)スープの技法を応用して、生ハムのダシで味を調えた。あくまで主役はスープであり、その旨味と風味を邪魔しないよう、具材も最低限の味付けにしている。チャーシューの上にはペッパーキャビアを振りかけた。
「八五」のラーメンを初めて食べた時の衝撃は忘れられない。さらに、何度食べても同じ感動があるからすごい。ホテルの総料理長から転身し、「ラーメンらしさとは何か」を追い続けてきた松村さんが、ホテル時代の技術を使い、あえてラーメンの定義を覆す一杯に挑戦した。それは今まで誰も食べたことのないラーメンで、たちまち話題となり連日大行列を作っている。今年の「TRYラーメン大賞」などの賞レースにも間違いなく顔を出してくるラーメンであろう。
今やラーメンは日本が世界に誇る国民食だが、その一方で後継ぎがなく、のれんを下ろす名店もある。今後は、ラーメンの地位向上を目指していきたいと松村さんは言う。
「“料理人”としてのラーメン職人がもっと現れてほしいと思うし、家族に誇れる職業にしたい。我々が出しているラーメンがどんどん美味しくなれば、自ずとそうなっていくんじゃないかなと思います」(松村さん)
来年は東京オリンピック・パラリンピックもあり、さらに多くの外国人観光客が日本を訪れることが予想される。日本のラーメンを広く伝えるチャンスだ。松村さんは「まずはラーメンを食べてほしい」と意気込みながら、今日もラーメンを作り続ける。
そんな松村さんの愛する一杯は、「八五」オープンのきっかけにもなった新宿のラーメンだ。
■1日5食しか売れない“閑古鳥”ラーメン店がミシュラン一つ星を獲得!