同番組で取材にあたったジャーナリスト・丸山ゴンザレス氏は語る。
「近年、世界ではヘロインの1万倍の効果があるという大型動物用鎮痛剤『カルフェンタニル』、皮膚が黒く変色する『クロコダイル(デソモルヒネ)』など、使用者が死に至るほど強力な"デス・ドラッグ"の流行が顕著です。ニャオペを静脈注射する乱用者を目の当たりにしましたが、途端に血管が変色した。これだけでいかに強力なドラッグか明白ですが、ニャオペの問題点は、副作用を含む効果に対して現地の物価でも極めて安価に、そして安易に入手できること。これが国際的に流通すれば世界的に蔓延する危険性があります」
■複雑怪奇なニャオペの正体
ニャオペはどのような麻薬なのか、という問いに簡潔に答えるのは難しい。「現在進行系で成長を続ける都市伝説」と先述したように、時期によってその正体が変化しているからだ。
流行の兆しが報道され始めた2010年代初頭から「HIVの治療薬が主成分である」という噂は存在した。しかし2011年、クワズール・ナタール大学(南ア)の研究者が別々の場所で入手したニャオペを分析した結果、その主成分は粗悪なヘロインとストリキニーネという薬品で、HIV治療薬は検出されなかった。
だが、ここから事態は奇妙な展開を迎える。2010年代中頃から、HIV患者をターゲットにした強盗や、病院への襲撃が南アフリカ全土で増加し始めるのだ。動機はHIV治療薬を奪い、ニャオペとして使用・販売するためと考えられている。すなわち、もともとはHIV治療薬が含まれていなかったニャオペは、デマの通りにHIV治療薬を含んだ麻薬として流通し始めているという。
その背景を、現地の事情に詳しいヨハネスブルクの新聞社メール&ガーディアン紙のデルウィン・ベラサミー記者はこう解説する。
「南アフリカには700万人以上のHIV感染者が暮らしていて、この病気に対する恐怖は現在でも強い。また、高等教育修了者の比率が低い黒人の間で顕著ですが、迷信深い人々が伝統的に多い。結果として『HIVのような強力な疾病に対抗できる薬ならば、より強い力を与えてくれるはず』という素朴な思い込みにつながった。これが多くの人々がニャオペに引きつけられる理由のひとつといわれています」