しかし、ニャオペ乱用者を発見するといってもどのように見分けるのか。歩きはじめて5分も経たないうちに答えがわかった。マドンセラ氏は、スーパーマーケットなどで使うショッピングカートを押して歩くひとりの男性を目に留めると、早足で詰め寄り、問答無用でポケットをまさぐった。すると2本の注射器とニャオペが詰められたマッチ箱が転がり落ちてきた。


転がり落ちてきた注射器。黄色いマッチの箱にはニャオペの小袋が隠されていた
転がり落ちてきた注射器。黄色いマッチの箱にはニャオペの小袋が隠されていた

 ニャオペによって意識が混濁しているのか、男性は全身を調べられる間、抵抗もしなければ反論もしない。マドンセラ氏は持ち物をすべて確認すると、注射器を踏み壊し、ニャオペは入念に踏みつけて破棄した。そして「二度と手を出すな」と強い口調で言い聞かせ、男性を解放した。

 疑問がふたつあった。まず、なぜ男性がニャオペを所持しているとわかったのか。返答は「雰囲気」。中毒者は目が淀んでいるのですぐにわかるという。さらにショッピングカートを押していたことも裏付けだと語る。中毒者はニャオペを買うため、1キログラム15ランド(約120円)ほどのレートの空き缶拾いで小銭を稼ぐことが多い。大量の空き缶を運ぶためにはショッピングカートを使う場合がほとんどで、事実、男性のカートには多くの空き缶が乗せられていた。

 もうひとつの疑問は、なぜ警察に連行しないのかだ。ニャオペが比較的新しい社会問題であることは確かだが、南アフリカ政府は2014年にニャオペを違法薬物と認定し、使用・所持に懲役15年、売買に懲役25年を科すことを決めている。その答えはにわかに信じがたいものだ。「警察はヤク中など相手にしない。数が多すぎて、いちいち構っていられないんだ」(マドンセラ氏)。しかし、記事冒頭で触れたニャオペ中毒者たちも同様のことを口にしていた。顔を写真に撮られることすら気に留めていない様子だった。「警察は何もしてくれない。自分たちのコミュニティーは自分たちで守らなければならない」。マドンセラ氏はそう繰り返し強調した。

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