■語圧が高い高圧洗浄機体質

 さて、小学生の私に話を戻しましょう。日本に帰国してからが大変でした。当時はまだ帰国子女が珍しくただでさえ浮きがちな上に、生来のおしゃべりからつい余計なことを言ってしまうからです。きっと、黙ってニコニコしていればよかったんでしょうね。ところがこの「黙っている」のが極端に苦手であることが、人間関係を難しくするのです。

 たくさん失敗をしたので、現在ではコントロールできるようになりましたが、それでも家族などの親密な人間関係では、つまり真剣に相手に向き合っている間柄であるほど、思いが言葉になって溢れ出し、その密度と強度で相手に多大な圧力を感じさせてしまいます。語圧が高いとでもいうか……。これを私は、高圧洗浄機体質と呼んでいます。

 つまり、高圧洗浄機が高い水圧で水を飛ばして汚れを落とすように、語圧が高く饒舌である点を活かせば普通では届かないような遠くにまで言葉を届けることができます(こうして文章を書いたりテレビに出たり講演したり)。その一方で、至近距離で直に浴びると怪我をするほど過剰であるということです。

 息子たちと離れて暮らして5年目になりますが、母親が日豪往復でも親子の関係が希薄にならないのはテレビ電話と、この高圧洗浄機体質のおかげなのではないかと思います。むしろずっとそばにいるより、これぐらい離れているぐらいの方がいいのかも。なんだか映画の「シザーハンズ」にも通じるものがありますが、そういう意味ではこの過剰さに耐性がある夫は、特異体質なのかもしれません。(続)

※『一冊の本』2018年12月号掲載

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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