■映像のイメージを伴わないものは、私にとっては砂漠

 地元の公立小学校に上がってほどなく、親の転勤のためにシンガポール日本人学校に転校しました。外国暮らしに胸ときめかせていたものの、当時世界最大規模だったシンガポールの日本人学校は、狭い海外駐在員コミュニティーでの親の立場が子ども社会の序列に微妙に影響するという、息苦しい世界でした。

 通学に使うスクールバスでは毎朝仲間はずれにされました。でも、いじめっ子の女の子に声をかけられれば遊びに行きました。大事に扱われないのは辛いけど、仲間にすら入れてもらえないのはもっと寂しかったからです。なぜ自分がいじめられるのかはわからずじまいでした。家庭訪問に来た先生に涙ながらに訴えたとき、いつもは元気のいい先生が困ったような、それ以上は言ってくれるなという顔をしていたのを覚えています。

 そんな日々でも初めて暮らした熱帯の風物は色鮮やかで、緑濃い街路樹や濃いピンクのブーゲンビリア、辺りが真っ白になるほどの激しいスコール、雨上がりに響き渡る南国の鳥の声やいろんな人がまぜこぜの多文化社会の活気に満ちた風景を、心底美しいと思いました。

 後付けで考えれば、人間関係がうまくいかないことにはADHDも影響していたのかもしれません。思いついたことをすぐに口にするとか、喋り過ぎてしまうとか。けれどそれだけでなく、幼少時に同世代の子どもとの接触が少なかったこと、生来の激しい人見知り、愛着形成がうまくいかなかったことによる見捨てられ不安、人付き合いの適切なロールモデルが身近にいなかったことなどいくつもの要因があるでしょう。

 発達障害というと「空気が読めないからいじめられる」と言われたりしますが、障害の有る無しにかかわらず、残念ながら人が集まればいじめは起き得ます。いじめられる原因を探すのではなく、いじめる動機と、いじめを生む環境に注目することが大事ではないかと思います。人はなぜいじめをするのか、どのような環境でいじめが生まれやすいのか。たとえいじめられた側になんらかのきっかけがあったとしても、それを理由にいじめを正当化することはできません。

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