「ふーん」

 と私はいい、人に料理を出してもらって、けなすことはないだろうと、ちょっとむっとしたが、裕福な家の人だったので、私とは食生活が違うのだろうと思った。夏場は避暑に行った軽井沢のホテルから絵ハガキがきて、「今、ベランダでおいしいおやつをいただいています」 

 と書いてあった。私は、

「へえ、そりゃあ、結構だねえ」

 とつぶやき、狭い台所で玄米小豆御飯を炊いていたのだった。

 私は彼女が実家でどのような食生活をしているかは知らないが、私が日常的に食べていたのは、彼女にとっては貧乏くさいものだったのだろう。しかし私はグルメでも食べ歩きが趣味でも何でもないので、栄養バランスがよく、どんなに時間がかかっても20分以内で作れる、手間のかからないものを作り続けていた。だいたい、彼女からそういわれても、急にフレンチなど作れないし、作ろうとも思わなかった。料理をきちんと習って作りたい人は作ればいい。ケーキも焼くといっていたが、私は彼女が作ったものを食べたことは一度もなかった。食生活の嗜好が和食ではなくて洋食だったのかもしれない。顔を合わせるたびに、必ず不愉快なことをいわれるので、だんだん彼女とは疎遠になり、今はどうしているのか知らない。

 私が毎日作っているのは、名前をつけられない、料理ともいえないようなものばかりである。とりあえず必要な食材、私の場合は玉ねぎ、にんじん、ブロッコリー、キャベツ、トマト、小松菜、鶏肉、茸類、鮭、卵、海草類。切り干し大根、乾燥ゆばなどの乾物、だしパック、オリーブオイルは必ず買っておくが、買い物に行って旬の物があればそれに加える。それらを適当に組み合わせて、朝は御飯と具だくさんの味噌汁、昼間は御飯と鶏肉と野菜の煮物だったり、鶏肉を焼いたりする。夜は御飯は食べずに、今は蒸した鮭と野菜の炒め物が多い。冬場は魚と野菜を一緒に蒸し煮にしたりする。味噌汁も切り干し大根を具にすると、それが出汁がわりになるので、だしパックを使う必要がないので便利なのだ。

 炒め物をしていて、水分がちょっと出たと思ったら、そこに乾燥湯葉を投入して水分を吸わせる。とにかく様子を見ながらこんなものかでやっているので、

「毎日、料理を作るのは大変でしょう」

 といわれるけれど、すべて適当なので楽しみではないが負担ではない。決めているのは調味料に砂糖、みりんを使わないことくらいだろうか。調味料の量も目分量だし、細かいことは気にしない。すべて「適当」ですませているのだ。

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