日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介するこの連載。今回紹介するのは、ミシュランガイド東京のビブグルマンを5年連続で受賞した「RAMEN GOTTSU」の店主が愛する一杯。それは今は亡きラーメンの鬼・佐野実さんの最後の弟子が作る、決意のこもったラーメンだった。
■トレンドから外れても魚介豚骨を追求した理由
練馬にある「RAMEN GOTTSU」は、濃厚な魚介豚骨ラーメンのパイオニア「渡なべ」で修行した齋藤雅文さん(38)が2013年3月にオープンした。濃厚魚介豚骨系は03年ごろから大ブームを巻き起こしたが、名店の味を真似たお店が乱立、新規オープンすれば「またおま系」(「またお前か」の略)と揶揄され、オープン時、すでにブームは終焉を迎えていた。
しかし「渡なべ」の味に惚れ込んでこの世界に入った齋藤さん。独立するなら濃厚魚介豚骨系と決めていた。
「『六厘舎』さんや『とみ田』さんを真似したお店がたくさんありましたが、今はだいぶ淘汰されてきたと思います。魚介豚骨系のブームは終わりましたが、味自体には深い魅力があります」(齋藤さん)
魚介の旨味に豚骨で厚みをつけた濃厚なスープは、確かにわかりやすい美味しさだ。齋藤さんは、根強い人気を誇る濃厚魚介豚骨ラーメンの中で、オリジナリティを出そうと考えた。
魚介豚骨ラーメンは濃厚で食べごたえもあるだけに、食後にどうしてもある種の罪悪感が残る。齋藤さんは、まずその罪悪感を消すことに注力した。ドロドロ感やくどさ、油感は消したいが、スープの濃厚さは保ち、クリーミーに仕上げたい。ゲンコツ(豚の膝関節)を使わずに、背骨と鶏ガラでスープの厚みをかせいだ。タレには濃い味わいの再仕込み醤油を3種類ブレンドして、スープに負けないビターな醤油ダレを完成させた。
こうして「GOTTSU」の大人な魚介豚骨ラーメンが完成した。無骨な男くさいイメージを払拭し、女性客にも受け入れられた。お店の外装・内装は、ラーメン店とは思えぬオシャレなデザイン。友人に頼んで、自分の居心地がいい空間を作ったことが功を奏し、女性のおひとりさま需要にもマッチした。
ミシュランガイド東京のビブグルマンに選ばれると、外国人観光客も増えてきた。ここで「RAMEN GOTTSU」という横文字表記の店名が生きてくる。
「横文字で書いたらお店の雰囲気に合うなと思っただけだったんですけどね。外国人観光客を取り込もうなんて当時は全く考えていませんでした」(齋藤さん)
こうして有名店の仲間入りをした「GOTTSU」。齋藤さんはとにかく、自分のラーメンが好きなんだという。週に5日食べているが、全く飽きない。日頃から自分で作って、食べているからこそ細部に気づき、日々ブラッシュアップできる。今は多店舗展開も考えていない。