すぎ本/東京都中野区鷺宮4-2-3、営業時間11:30~15:00、18:00~21:00、月曜のみ11:30~15:00、火曜定休(筆者撮影)
すぎ本/東京都中野区鷺宮4-2-3、営業時間11:30~15:00、18:00~21:00、月曜のみ11:30~15:00、火曜定休(筆者撮影)

「普通のラーメンだな」

 悔しかったと同時に、見透かされていると感じた。思っていたようなラーメンを作れていなかったのだ。開店1カ月は「支那そばや」出身ということでお客さんも集まったが、すぐに客足は厳しくなった。お客が1日に30人しか来ない日もザラであった。

 杉本さんは師匠を見返したい一心でラーメン作りに励んだが、悲劇が起きる。14年4月、佐野さんが亡くなった。突然のことだった。

 納得できるラーメンを食べてもらえないまま、お別れとなってしまった。“佐野実 最後の弟子”として、自分でこれからの道を見つけていくしかないのだ。

 杉本さんは業界内で切磋琢磨できる仲間を見つけ、情報交換をしながら、ラーメンをブラッシュアップしていく。味も少しずつ仕上がっていき、客足も戻ってきた。なかでも食材選びにはとくにこだわった。

「佐野さんはインターネットもない頃から、ラーメンのために一人で食材と向き合っていました。知れば知るほど遠い存在です。でも、自分には佐野さんのDNAが根付いていると信じ、それを誇りにラーメンを作っています」(杉本さん)

 美味しいという噂は口コミで広がり、やがて行列を作る人気店に。ついにはミシュランガイド東京2017でビブグルマンを獲得するまでに至る。佐野イズムを受け継いだ杉本さんは、味の研究に余念がない。

「GOTTSU」の齋藤さんは、「すぎ本」のラーメンについてこう語る。

「出身店の良さが色濃く出ているという点で、自分との共通点を感じます。一方で、『支那そばや』とはまた違う杉本さんらしさも感じる。まろやかな中にもキレのある醤油スープは本当に美味いです。仕事も丁寧で、常連になりたいなと思わせてくれるお店です」(齋藤さん)

 杉本さんも「GOTTSU」齋藤さんのこだわりには目を見張る。

「とにかく熱い男です。どんなことがあってもお店を絶対に休まず、妥協しない。ラーメン屋としては理想の姿ですが、これがなかなかできない。具材の燻製や、ネギの切り方、ねじり方など、普通のお店の何倍もの手間がかかっています。それをほとんど一人でやっている。濃厚系のラーメンで頂点までいった人ですね」(杉本さん)

 師匠の技術を受け継ぎながらも、自分の味を出して高い評価を受けている二人。これはなかなかできることではない。こういったお店が、新たな時代を引っ張っていくに違いない。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。

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