複雑な思いもあった親子関係でしたが、最後に全霊で「あなたの人生は素晴らしかった、よく生きた、よく頑張った、あなたのことが大好きだ」と伝えることができてよかったです。生きたことを祝福できて良かった。全ての数値がゼロになったとき、父は走りきって無心に眠る子どものような顔をしていました。私は父が誰かをほとんど知りませんでした。父のことを真剣に知りたいと思ったこともありませんでした。あなたは誰?って、父は訊いて欲しかったんじゃないだろうか。それは叶いませんでしたが、最後にそばにいてあげられたことを誇りに思います。
生まれるときと死ぬときと、来るのか行くのかベクトルは違っても、立ち会う者にできるのはただ肯定して受容することなのだと思います。そのとき肯われているのは、歪な命を持つすべての者なのでしょう。(了)
※『一冊の本』2019年4月号掲載
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