■二つの幸福な出会い

 さて、そんな中でも私には幸福な出会いが二つありました。言わずと知れた息子たちです。その人がいなかった状態からスタートする人間関係なんて初めてでした。ある日、私の腹の中に生命が発生して、勝手に大きくなって人間の形になって出てきたのです。いまだにびっくりしています。いなかった人がいるようになるってすごいことです。ずっとお腹の中に入っていたけど、知らない人ですからね。出てきたときは「へえこんな人が入ってたんだ。誰だろ」と思いました。過干渉の親で大変な思いをした経験から、初めは子どもとの距離を縮めることをとても警戒していました。でもそんなことお構いなしに先方は始終いろんな要求をしてきますから、距離感が、なんて悩んでいる暇はなくなりました。死なせないように、怖がらせないように。全力で歓迎するしかありません。

 赤ちゃんがなんで可愛いかって、彼らほどこの世を面白がっている人はいないからです。何しろ彼らは全てが初めてなので珍しくてたまらないのです。知りたい、と思う気持ちは対象を信じることから始まります。疑わしく思って検分するのは拒絶の態度ですが、知りたい、面白いと思って見つめるのは受容の態度です。赤ん坊は迎え入れられる側のようですが、彼らこそ生まれながらに世界を受容しているのですね。

 私が必要としていたのはまさにその受容と信頼でした。息子たちは初めは自分がどこにいるかもわからず、何の疑いもなく乳首を咥え、始終泣いてあれこれ訴えました。しばらくして乳輪よりも広い世界を認識できるようになると、私を発見し、目を覗き込めば試すこともなく見つめ返して、こちらをしげしげと観察するようになりました。私は彼らにとって人物である以前に環境でした。彼らを生かしている環境そのものであったために、初めから肯定されていたのです。当たり前のことだけど私にとっては大事件でした。この世にこんな出会いがあったなんて!

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